生きていればきっと、
いつかいいことがある。
僕らの生きる
優しくも悲しく、
楽しくも切なく、
そして強くはかないこの素晴らしい世界で...。
浅野いにおという漫画家を知らなくても今年公開された宮﨑あおい主演『ソラニン』を知っている人は多いと思う。『ソラニン』はゼロ年代の初期のロスジェネ世代のモラトリアムを描いたものだった。
この作品をリアルタイムで雑誌連載時から読んでいた僕には作中に出てくる彼らは僕自身の分身のようにリアリティのあるものだった。僕はバンドや音楽をしているわけではなかったけど、その流れる空気感の中で二十代の前半をゼロ年代を過ごした一人だったから。
『ソラニン』の雑誌連載が終わった07年に「リーマン・ショック」が起こった。この世界的な大不況は僕らが二十代前半に味わえた、味わう事でなんとか現実に向き合う事から少しだけ逃げ出すこと可能だったある種の逃避ができないまでに世界の構造を変えてしまった。
僕らの下の世代はもはやモラリアムを過ごす余裕すらも奪われてしまった。そういう意味で『ソラニン』という漫画での登場人物たちに憧れてしまっては困るし肯定できるわけではないと浅野いにお氏も雑誌インタビューで述べていたが、この作品は『ロストジェネレーション』と呼ばれる世代にかなり思い入れが強い作品となってしまった面がある。
映画『ソラニン』で楽曲の『ソラニン』と『ムスタング』を提供したASIAN KUNG-FU GENERATIONの最新アルバム『マジックディスク』の中には『さよならロストジェネレイション』が収録されている。浅野いにおとボーカル・後藤正文が同時代を生きて似た体験をしているからこその映画への楽曲提供、雑誌での彼らの対談のある種の意思疎通や共闘感が窺えた。
『さよならロストジェネレイション』を聴いた十代のアジカンファンには「ロスジェネって何?」「バブルって何?」という人もいるらしい。「ロスジェネ」の意味なんか知らなくてもいいけど、そのぐらいにかつてあったことはすぐに忘れられている。今の不景気の元凶や流れの根本すらも若い世代には共有されていないのかもしれない。
そのキーワードとしての「ロスジェネ」と「ゼロ年代」という単語。浅野いにおは2000年に『ビッグコミックスペシャル増刊Manpuku!』で読み切り作品『普通の日』でデビューをした。
その後月刊サンデーGENE-Xの第一回GX新人賞に「宇宙からコンニチハ」が入選し、翌年から同誌で『素晴らしい世界』が連載開始された、それが著者の初の単行本となる。それは二巻からなる連作短編集で一話完結だが、登場人物たちが微妙に繋がっている世界の話である。
GX創刊10周年スペシャルエディションとしてその『素晴らしい世界』が完全版として発売された。コミック二巻と違うのは雑誌掲載時のまま掲載順に特別編集されている点と、コミケ会場限定版小冊子収録スピンオフやPR用に書き下ろされたショートストーリーが完全網羅されている点だ。
僕はコミック一巻が店頭の新刊コーナーに置かれている時にその表紙(熊の着ぐるみの頭を被って走る絵のやつ)が気に入ってジャケ買いしたことから浅野いにおという作家を知り追いかけるようになったので雑誌掲載時の状態を知らなかった。今回のスペシャルエディションを読むとこうだったのかと思うところが多々あった。
コミック二巻の最後に掲載されている『桜の季節』が一番最初に掲載されている、しかもコミック版よりも絵がまだヘタで微妙に違う。コミック二巻に掲載された『桜の季節』はラストプログラムとして載っているので見比べるのもいいと思う。
『桜の季節』と言えば亡くなってしまった志村が在籍していたフジファブリックの名曲と同名タイトルではあるが、『素晴らしい世界』という作品は中村一義の作品からの影響を受けていると浅野氏が『QJ』でのインタビューで答えているように九十年代からゼロ年代にロックンロールをかき鳴らした、ポップな色彩をまき散らした日本のバンドたちの影響が見られる。
スペシャルエディションに掲載されている順にタイトルを挙げると「桜の季節」「脱兎さん」「坂の多い街」「森のクマさん」「ワンダーフォーゲル」「白い星、黒い星」「サンデーピープル」「mini grammer」「Untitled」「シロップ」「バードウィーク」「雨のち晴れ」「砂の城」「おやすみなさい」「月になると」「素晴らしき世界」「あおぞら」「春風」「桜の季節」「それから」「花火」「デッド・スター・エンド」「愛のかたち」「HARRY STORY」と並んでいる。
何個か思い出せる曲名とタイトルが一致する。その光景が、かつて過ぎ去っていった風景が、極めて僕らが過ごして通りすぎたモラトリアムな時期を救ってくれた、並走してくれた、慰めてくれた曲と同じ名前を持っている。そういう意味でも『素晴らしい世界』に流れる空気感は極めてゼロ年代的なものをもち、それらの楽曲を過ごして十代から二十代へ、学生から社会人となる過程を過ごしていた「ロスジェネ」世代には極めて身近な作品になりえる。
ただ、身近な友人の中で浅野いにお作品が苦手な人を見るとそれらの楽曲に思い入れがない、好きではない人にはやはり苦手な作家となりやすいというのもこの十年でわかったことではある。浅野いにおが描く世界観はそれらの影響下から派生しているのでそれらに親近感を持つ人はその世界に違和感なく入り込める。『ソラニン』という作品もそういうものだったのでないかと思う。
浅野いにお氏がイメージイラストを描いているTBSラジオ『文化系トークラジオ Life』という番組がある。この番組は06年から開始され現在まで続いている。番組名に「文化系」とつくようにサブカルチャーから社会時評をするトークが人気な番組だ。浅野いにおの本を絶対に見かける場所といえばサブカル好きには外せないスポット「ヴィレッジヴァンガード」だ。どの店舗にいっても浅野いにお作品は平積みされている。
僕はそうやって出会ってしまうのがいいなって思う。ある日初めて聴いたラジオで、興味もないのに友達に付き合った本屋で、たまたま入ってしまったCD屋で、僕らには「未知との遭遇」が必要だ。その遭遇は僕らを知らない場所に連れて行くし、出会う事のなかった誰かを引き寄せる力を持っている。今まで知らなかった痛みを教えてくれる、あるいは忘れられない景色を、そしてふと思い出してしまう後ろ姿や匂いみたいなどうしようもない気持ちも、きっと。
読み終わると家から飛び出して散歩したくなる。このどうしようもなく素晴らしい世界の色彩を確かめに、僕以外の誰かの生活があることを感じるために。この世界は時々は素晴らしいと、すれ違うあの人の人生がいつか、いやもうすでに僕の人生と関係しているのかもしれない、世界はそんな風に回っているんだと思うとなぜだか嬉しい。
ザ・ギース(THE GEESE)はコントのワークショップで知り合った高佐一慈と尾関高文の2人組のコント師。シティボーイズに憧れていたという通り(同じ事務所に入った)、シュールな設定とそれでいてベタなギャグも織り交ぜたネタが持ち味。本DVDは第6回単独ライブを収録したもの。
「オレは仕事しかない人生だった。そんなふうに思って死ぬのはごめんですね」と、登場人物のひとりが言う。それに対し、主人公の松方弘子はこう言う。「わたしは仕事したなーって思って死にたい」。どちらも正しいと僕には思える。いや、どちらが正しくて、間違いなのか、といったものはないのだろう。ただ、漫画『働きマン』の帯には大きくこう書かれている。
パッとジャケットを見た限り、どこからどう見ても2010年のアルバムとは信じがたいデザイン。スウィンギン・ロンドン? モータウン? 即座に想起させられるのは麗しの60年代ポップス黄金時代。フランス・ギャルもビックリなメンバー4人のルックス偏差値のハイスコアっぷりも、彼女たちのとっている決めポーズも、どれもいちいち素晴らしい。出来ることならCDでなくアナログ盤で所有して部屋に飾りたくなる。
2008年10月にリリースされたファースト・アルバム『Alpinisms』に衝撃を受けて以来、翌年明け深夜に代官山UNITで行なわれた初来日公演、サマー・ソニック2009での初日ソニック・ステージ1発目、そして、昨年暮れに英国マインヘッドで行なわれたAll Tomorrow's Partiesのスピンアウト的フェスNightmare Before Christmasの最終日ヘッドライナー(キュレーターであり、メイン・アクトでもあるマイ・ブラッディ・ヴァレンタインより後に登場!)と、ここ1年あまりの彼らの活躍を要所要所で目撃してきた筆者としては、個人的にも非常に思い入れの深いバンドである。元シークレット・マシーンズのベンジャミン・カーティスと、元オン! エアー! ライブラリーのアレハンドラ & クラウディアの双子姉妹による3人組ユニット、スクール・オブ・セヴン・ベルズ。セカンド・アルバムとなる本作は、そんな彼らのここまでの成長の跡がしっかりと刻まれた力作である。
予想通り、なんていうと聞こえが悪い。それは重々承知している。だが、シザー・シスターズと、ザ・キラーズ『Day & Age』を手がけたスチュアート・プライスがタッグを組む、といったら思うことはひとつ。セカンド『Ta-Dah』収録の「I Don't Feel Like Dancin'」で見せ付けた特大のアンセム力を目一杯、伸ばす。実際、その通りだった。だが、両者のハマりっぷりは想定の範囲を遥かに超えていた。
完全に一皮剥けた! 突き抜けている! いきなりよくわからない手放しの賞賛から入ってしまったが、聴いているあいだ、ひたすら拳を握り締めたまま意味もなく何度もガッツポーズをとりたくなるような音源となんて、片っぱしからCDやレコードを聴き漁っていてもそうそう巡り会えるものでないのだから許してほしい。極彩色の散りばめられたジャケットが何より力強く表明しているエレクトロ・サウンドが、27分弱の収録時間において終始フルスロットルのまま、一瞬も弛緩することなく怒涛の勢いで迫ってくる。本当に好盤。まずはここで彼らに対して全面支持を表明しておきたい。
日本でも人気急上昇中のデロリアンも所属する、スペインのMushroom Pillowからのデビューとなったヴァレンシア発の5人組インディー・ロック・バンドのファースト・アルバム。プレイ・ボタンを押して1曲目の「High On Life」が流れた瞬間から、何だかドキドキが止まらない。太陽ギンギンの真夏のアスファルトの上をスイスイと自転車で走り抜けるような、爽やかな青春時代を呼び起こす、ちょっぴり切なくて甘酸っぱいあの気持ち。その何とも言えない気持ちに拍車をかけるかのように、「♪1、2、3、4、5~」と軽快な歌い出しでキラッキラと眩しいメロディが炸裂するキラー・トラック「Fireworks」が続く。程よくキレのあるバンド・アンサンブルと、フックの効いたダンサブルな曲展開も良い。その後もこれでもかと至極のポップネスをズラリと並べて、こちらはもうメロメロ。ずっと置いてきぼりで長らく忘れていた大切な何かを呼び起こしてくれる、そんなマジカルなグッド・メロディとグッド・ソングが詰まった、この夏にぴったりな1枚です。
ソシュールの概念としてラングとパロールというものがある。