伊藤英嗣: February 2012アーカイブ

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執筆に数年、邦版制作に1年以上かかったピーター・フック著『ハシエンダ』が、この2月、ついに日本で発行された。

ミュージシャン(元ジョイ・ディヴィジョン/ニュー・オーダー)であるピーター・フックが書いた本? まもとなの? といぶかしく思うかたも少なくないだろう。しかし、はっきり言っておく。これは、むちゃくちゃおもしろい。そしてクオリティーも高い。

「The Guilty Parties」と題された前文(翻訳は「罪深きパーティーをくりかえす仲間たち」。本当はニュー・オーダーに「Guilty Partner」って曲がある...というニュアンスもこめたかった。でも、この一文の和訳としてはむつかしかった:笑)でピーター自身も(美しく遠回しに)述べているのだが、本書は「当事者によるドキュメント」でありながら、ある種の客観的...批評的視線に貫かれている。それでも「評論」本にありがちな堅苦しさは皆無。愛と自責にあふれている。おそらく、だからこそ心から笑えるし、感動できる。

クッキーシーンではおなじみの中谷ななみさんとぼくが翻訳を担当、現編集部の面々も制作に関わっている。現在のクラブ・カルチャーの礎となったハシエンダや、ニュー・オーダーおよびジョイ・ディヴィジョン、そしてファクトリー・レコーズの「姿勢」に少しでも興味があるかたは、是非とも手にとってご一読いただきたい。絶対、損にはならないと思う。

ウェブ媒体としてのクッキーシーンでは、すでにピーター・フックのインタヴューをお届けしているが、ここでは長文の書評を掲載する。それを執筆した近藤くんも制作に関わってはいる。しかし(ほかの編集部員と同じく)あくまで純粋なボランティアとして編集作業の一段階に協力したのみ。最初はレヴューを希望した彼だが、なんとなく「レヴュー枠」に載せるのは変じゃない? ...みたいな感じで、この別枠を用意することにした。

まだ未読のかた、そしてすでに読んでくださったかたも、ひとつの参考になれば...と願いつつ...。では、どうぞ!

2012年2月27日

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2012年2月27日更新分レヴューです。

PERFUME GENIUS『Put Your Back N 2 It』
2012年2月27日 更新
NEW AGE STEPPERS『Love Forever』
2012年2月27日 更新
ITAL『Hive Mind』
2012年2月27日 更新
LAURA VEIRS『Tumble Bee』
2012年2月27日 更新
山田鰆『ぶらりとながり』
2012年2月27日 更新
SHEEP「Nausicaa / Blue」
2012年2月27日 更新

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今回の「表紙」にフィーチャーされたのは、素晴らしいファースト・アルバムをリリースした期待のニュー・バンド、リョウ・ハマモト・アンド・ザ・ウェットランド。インタヴュー記事は、こちら

「DLすると横幅が1500pixel」となる画像をアップしました。あなたのPCの壁紙に使えるかも...!

2012年2月23日01時05分 (HI)

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RYO HAMAMOTO & THE WETLAND

湿地帯には魚もいれば鳥もいるし
複雑多様な生態系がありますよね


'00年代から良質なUSインディー・ミュージックを中心にリリースをつづけてきたアンド・レコーズから、ファースト・アルバムをリリースするリョウ・ハマモト・アンド・ザ・ウェットランド。その作品を聴いて、ぼくは深く感動しつつ、ちょっと妙な感慨にとらわれてしまった。それで猛烈に興味をひかれ、インタヴューを敢行させてもらうことにした。

すでにアラフィフの域に達しているぼくが彼らの音楽を聴いて、まず思いだしたのは、たとえばR.E.M.やニール・ヤング...。もちろん、彼らの音楽には実にさまざまな要素が内包されているのだが、'00年代の「USインディー」界隈では、尊敬はされていたかもしれないけれど、決してスーパー・クールではなかったアーティストたちの名前がぱっと頭に浮かんでしまった...。また、リョウ・ハマモトの"うた"からは、たぶん彼自身も知らないような(だから、とりあえず今回のメール・インタヴューでは、そのことについてはふれなかったけれど)70年代の優れた日本のシンガーにつながるものを感じたり...。

時代がひとまわりしたというか、「直前の過去」とは違う、新しい世代を見るような気がする。

ハマモトは、3月2日(金)から始まるオーウェンことマイク・キンセラのジャパン・ツアーに(その初日以外の4ヶ所は)同行して、ライヴを披露してくれる。新しい世代とか言いつつ(笑)、いや、それも似合うぞ...という意味で、そのツアー中に、彼とマイクの対談をおこなう予定だ。無事できたら、またここで発表します!

そんな彼の、メールによるものとは思えない(?)ロング・インタヴューを、おとどけします。じっくりご覧いただければさいわいです!

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ピーター・フック

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PETER HOOK

誰でもDJをやってみたらいいんだよ
でも、うまくDJをするってことは難しい

元ジョイ・ディヴィジョンのオリジナル・メンバー(どの楽器が最も印象に残ったかといえば、やっぱ、彼のベースだよね?)であり、もちろんニュー・オーダーの重鎮であるピーター・フック。本国では音楽書の枠を超えてベストセラーとなった彼の初めての著作『ハシエンダ』日本版がリリースされる。音楽ファンなら誰もが必読の、超一級ドキュメンタリー。そして、彼がそこでなにを学んできたかも(なんとなく、だが:笑)よくわかる、感動的な作品となっている。

つい最近、彼がニュー・オーダーの「ほかの3人(The Other Three)」の不埒な行為に関して訴訟を起こした理由も、『ハシエンダ』を読めば、間接的にわかる...ような気もする。

この4月末には、新しいバンド、ザ・ライトを率いて大磯でおこなわれるフェスティヴァルのために来日、ついに日本の聴衆の前で(フジ・ロックにてニュー・オーダーがおこなって以来、初めて)ジョイ・ディヴィジョンの曲を披露してくれることになっている。その面子による『Unknown Pleasures』再現ライヴ・アルバムを聴いたが、正直素晴らしかった。「ジョイ・ディヴィジョンのヴォーカリスト」は、もちろん故イアン・カーティスだったけれど、それを継ぐ者としては(ニュー・オーダーとしてそれを披露したときの)バーナード・サムナーよりもピーター・フックのほうがふさわしい。そこにこめられた、狂おしいまでの熱情の質および量ともに、

この1月、インターナショナルな存在として復活した伝説のクラブ、ハシエンダ主催イヴェントにDJとして出演するため来日を果たしたピーター・フックに話を聞いた。ぼくは個人的な都合で残念ながら参加できなかったその取材を敢行してくれたのは中谷ななみさんと、『ハシエンダ』日本版編集者圓尾公佑さん。では、どうぞ!

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all photos by Kazuya Hayashi

2012年2月20日

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現クッキーシーン・スタッフ(メイン通訳/翻訳者の中谷ななみさん含む)が全員制作に関わった、ピーター・フック著『ハシエンダ』の日本版がイースト・プレスからついにリリースされました。

そして標題のトーク・イヴェントが正式決定!

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出演:
伊藤英嗣(クッキーシーン編集長/本書の翻訳&監修を担当)
久保憲司(カメラマン)
古閑裕(VENUS PETER/K.O.G.A.)

場所:タワーレコード新宿店9F ※書籍売場は10Fです。
日時:3/16(金)20:00スタート
配券:新宿店のみ
整理番号:ナシ(電話取置可)
特典:ハシエンダ大磯フェスティバル2日通しチケット(当該店で本書ご購入のかたから抽選で1名さま)

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というわけで、「整理番号」はないみたいですし、見るだけなら誰でもふらりとご覧になれるイヴェントではないでしょうか? サインをもらうためには「券」が必要なのかもしれませんが、伊藤のサインとか、誰もほしくないでしょう(笑)。あっ、クボケンさんや古閑くんのサインはほしいかな(汗)?

でもって、このイヴェント自体はフリーなので、お時間のあられるかたは、どうかふるってご参加ください。よろしくお願いします!

2012年2月17日(金)6時25分 (HI) 



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PETER BRODERICK.jpg ポスト・クラシカル、アンビエント色の強い1stアルバム『Float』や、才気高いSSWとしてヴォーカル曲にスポットを当てた『Home』をはじめ、寿命を削るようなハード・ワークによって生み出されたアルバム達を、一度振り返った、あるいは一つの節目として栞に挟んだアルバムである。ソロ・ワークとしても、他のアーティストとの共作やサポート・メンバーとしても、ここまで強い創作意欲をプロモーションへ振り分けたのは、彼の短くも濃いキャリアにおいて初めてである。

 本盤には、彼が培った幾多の音楽的側面と、奇抜なアイデアによる挑戦意欲が散りばめられている。URL先を踏めば、アルバム内の楽曲は全て試聴可能であり、歌詞やセルフ・ライナーノーツ、アート・ワーク、演奏したインストゥルメンタル(担当する楽器の多さは、正にマルチ・プレイヤーである)までもが詳細に記されている。フリー・ダウンロードによってデータ化された音楽に向けて、彼が投じた一つの意見のようなアルバムであるが、説教臭さは無く、非常に内省的な音楽性が終始貫かれている。彼の持つ素養の中でもエレクトロニカ、アンビエント、ポスト・クラシカルらが最も強調されており、ピアノやギターのアルペジオによる反復をベースに、透明感のあるヴォーカルや、美しい無数のレイヤーを重ねている。スピード感のある「With The Notes On Fire」のような曲もあれば、ミニマルな音数と構成にフォーキーなメロディを乗せた「Blue」や、徐々に膨らむレイヤーがシネマティックな「Asleep」など、今までの彼には無い非統一感があり、翻せば音楽性のバラエティに富んでいる。ここには、SSWとしての彼も、サウンド・トラック・メイカーとしての彼も、マルチ・プレイヤーとしての彼も内在している。

 アルバム名が放つ異物感は、本盤が類い稀なる問題作・挑戦作であることを想起させる。しかしながら蓋を開けてみれば、本盤は順調に活躍し続けた彼にとっての集大成的作品であり、変な高慢さとは無縁の、実はとても素直なアルバムである。以前から親交の深いニルズ・フラームがプロデュース、レコーディング、ミックス、マスタリングを手掛けており、姉のヘザー・ウッズ・ブロデリックなど、ゲスト・アーティストも多彩である。アルバムの周囲を飛び交う堅苦しい言葉を抜きに、ずっと聴き流していたくなる催眠性がある。

 

(楓屋)

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Nzca.jpg 元メトロノミーのガブリエルも参加するユア・トゥエンティーズのメンバー、マイケル・ラベットのソロ・プロジェクトであるナスカラインズ。そのナスカラインズのファースト・アルバム『Nzca / Lines』なんだけど、すごく面白い。音源をいただいてから何度も聴いているが、ふと思いだして聴きたくなるスルメアルバムだ。

 全編浮遊感が心地良いエレ・ポップで、ディスコやエレクトロといった音楽をモダンに仕上げた所謂レトロ・フューチャリスティックな方法論で作られているが、そんな一言で括るにはもったいない魅力が本作には存在する。プロモ資料には"インディーR&B"なんて言葉も出てくるし、イントロが鳴った瞬間クラフトワークの「Tour De France」を想起してしまう「Compass Points」みたいな曲もある。他にも古き良きIDMやファンク、アンビエント、そしてもっとも面白かった頃のチルウェイヴ、つまり、リバーブの奥に潜む多様な音楽性が魑魅魍魎と美しく渦巻いていた頃のチルウェイヴ。そういう意味では、"チルウェイヴ以降のエレ・ポップ"として語ることもできるだろう。

 だがアルバムを通して聴くと、そんな単一的ジャンル分けはどんどん無効になっていくことがわかるはず。様々な要素が複雑に絡み合いながらも、あくまで音数が少ないシンプルかつ精巧なポップ・ソング集として聴き手の心を刺激してくれる。だから特定のバンドやアーティストを挙げて例えるのは難しいが、実験精神とインテリジェンスを感じさせるサウンド、そしてファルセットが特徴的な美声という点ではホット・チップと共通するかもしれない。

 "どこか聴いたことあるようで今までなかった音楽"にはそうそう巡りあえるものではないが、本作は間違いなく"ありそうでなかった音楽"だ。あらゆるものから切りはなされた空間で鳴るミステリアスな音楽。それが『Nzca / Lines』である。

 

(近藤真弥)

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LEONARD COHEN.jpg 「ほとんどの人たちは死に対する用意ができていない。自分たち自身の死だろうが、誰か他人の死だろうが。死に誰もがショックを受け、恐怖を覚える。まるで不意討ちだ。何だって、そんなこと絶対にありえないよ。私は死を左のポケットに入れて持ち歩いている。そいつを取り出して、話しかけてみる。「やあ、ベイビー、どうしてる? いつわたしのもとにやってきてくれるのかな? ちゃんと心構えしておくからね」(チャールズ・ブコウスキー著『死をポケットに入れて』中川五郎訳:河出書房新社)

 「クッキーシーンに載るミュージシャンでは最高齢かも。」と、前作のライヴ・アルバム『Songs From The Road』を取り上げた時に書いたけれども、レナード・コーエン自身がその記録を塗り替えようとしている。御年77歳! スタジオ・レコーディングとしては『Dear Heather』以来、8年ぶりとなる新作『Old Ideas』が素晴らしい。40年以上にも渡る長いキャリアの中でリリースされたオリジナル・アルバムはこれで12枚目。むしろ寡作と言ってもいいだろう。でも、時間をかけてじっくり制作されたアルバムは、どれも傑作だ。今作のプロデューサーには、マドンナやブライアン・フェリー、ロッド・スチュワートなどを手掛けてきたパトリック・レナード(一部のリリース情報では、彼が"実の息子"と紹介されているけれど、それは間違い。レナード・コーエンの息子はアダム・コーエンであり、アダムの3rdアルバムをプロデュースしたのがパトリック。それが縁で今作のプロデュースに至る。確かにややこしいな!)をはじめ、コーエンの公私に渡るパートナーでもあるアンジャニ・トーマスなど4人の名前があがっている。バリエーションを持たせるのではなく、シンプルでアコースティックなアレンジに統一されたサウンドは、さらに深みを増したコーエンの歌声に寄り添うように響く。

 冒頭に引用したのは、ブコウスキーが71歳の時に書いた日記からの言葉。力強く、ユーモアいっぱいの彼らしい言い回しだけれども、日常につきまとう"老い"と忍び寄る"死"に対する思いは真摯だ。この日記が書かれてから3年後に、彼がこの世を去ってしまったことを知っている僕たちにとってはなおさらだろう。"聖と性"―そんなふうに例えられることが多いレナード・コーエンの歌。『Old Ideas』と名付けられたこのアルバムでも、彼がデビュー以来ずっと歌い続けてきた神への問いかけや人間の欲望に加え、やはり"老い"や"死"を意識した言葉が多く綴られている。

《私には未来はない / 残された日々はわずか / 現在の生活は楽しくない / しなければいけないことばかり / 過去を懐かしんでずっと生きられると思っていた / でも暗闇に取り付かれた》(ダークネス)

《時にはハイウェイを目指したもの / 鏡は正直に老いを写す / しかし狂気は、いくら別れようとしても / 深く身を隠し、去ろうとはしない》(クレイジー・トゥ・ラヴ・ユー)

 老齢に差し掛かり禅を学んだというレナード・コーエンにとっても、"老い"と"死"は逃れようもなく、恐れ(畏れ)や混乱が色濃く滲み出ている。それでもこのアルバムは、暗く陰鬱なものではない。むしろ"死"すらも見据えた言葉と歌が、リアルに生き生きと迫ってくる。トータルで約40分という決して長くはない10曲を聴き終えた時に気付くことは、"死"を身近に意識してこそ浮き彫りになる"どう生きるか?"という思いだ。それは年齢も人種もジェンダーも関係ない。"聖と性"、それを同じ響きを持つ日本語に言い換えるなら、"生"そのものだろう。思い出して欲しい。ジェフ・バックリィ、ルーファス・ウェインライトからスネオヘアーまでがカヴァーした代表曲「ハレルヤ」の一節を。

《多分、天には神がおられるのだろう / だけど、僕が愛から学んだことは、先に銃を抜いた相手をどうすれば撃ち倒せるかということだけ / それは夜に聞こえてくる叫び声じゃない / それは光を見たという誰かのことでもない / それは冷たく、傷ついたハレルヤ》

 "主をほめ讃えよ"という意味を持ち、賛美歌でもある「ハレルヤ」を、たとえ冷たくても、傷ついていても僕たちの手もとにたぐり寄せたレナード・コーエンの歌。彼が歌い続けてきたことの本質はこの新作でも変わらず、よりいっそう研ぎ澄まされている。『Old Ideas』のリリースに合わせて、いま活躍しているミュージシャンやバンドが彼の曲をカヴァーする"Old Ideas With New Friends"という企画をチェックして欲しい。ニュー・ポルノ・グラファーズのA.C.ニューマン、今年のI'll Be Your Mirror USAでついに復活を果たすアフガン・ウィッグスのグレッグ・ダリをはじめ、カルツやブラッドフォード・コックス、コールド・ウォー・キッズ、マウンテン・ゴーツなど、クッキーシーンが激オシしたいメンツばかりが勢揃い! 10年代のキッズにはレナード・コーエンを発見する絶好の機会。年季の入った音楽ファンは、10年代のインディー / オルタナティブ・ミュージックの豊かさに気付くはず。レナード・コーエンの歌は、こんなふうに歌い継がれていくのだろう。

 『Old Ideas』というタイトル、それは「ジジイのひらめき」でも「古ぼけた考え」でもなく、「私がずっと歌い続けてきたことだよ」とレナード・コーエンはほくそ笑んでいるかもしれない。

 

(犬飼一郎)

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