きのこ帝国『猫とアレルギー』(Universal Music)

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 今年4月にリリースされたシングル、「桜が咲く前に」を聴いたときから、予感はあった。この曲には、きのこ帝国のトレードマークである、聴き手の胸ぐらを掴むような轟音がほとんどなかった。親しみやすいシンプルなメロディーに、 耳馴染みがよいアコースティック・ギターの響きを際立たせたサウンド。一瞬、『eureka』(2013)収録の「風化する教室」みたいとも感じたが、「風化する教室」にあった、ヒリヒリとする緊張感やシニシズムはない。かといって、『フェイクワールドワンダーランド』(2014)と地続きだと思うには、あまりにも距離がありすぎる。「こりゃあ、次のアルバムはどうなるんだろう?」。怖いもの見たさという、一種の不安を抱きつつ、筆者はきのこ帝国の最新アルバムを楽しみに待っていた。


 そして、『フェイクワールドワンダーランド』から約1年。届けられた最新アルバムが本作だ。タイトルは、『猫とアレルギー』。本音を言えば戸惑った。メンバー全員が猫を抱える新しいアーティスト写真も、面白いというよりは、頭にクエスチョン・マークがたくさん浮かぶものだった。


 とはいえ、肝心の内容は、悪くない。むしろ良いアルバムだと思うし、これまでも窺えた高いソングライティング能力を堪能できる内容だ。メロディーもシンプルなものが多く、きのこ帝国史上もっとも親しみやすいものに仕上がっている。歌詞は平易な言葉が目立つ。まさに、「桜が咲く前に」のような曲がほとんど。まさか、アルバム全体がそのようになるとは...。しかし、「YOUTHFUL ANGER」は異質なものとなっている。ヴォーカルはノイズのなかに埋もれ、〈褒められなくたっていいや 飼いならされるよりはマシ〉と歌われる歌詞は、攻撃的だと言える。サウンドも、初期のニルヴァーナに通じるラウドなもの。いわゆるグランジというやつだ。ちなみに「YOUTHFUL ANGER」、きのこ帝国の変化に戸惑った筆者のような者に向けた曲だと思うのだが、どうだろう?


 正直、ここまでスロウな曲を揃えてしまったのは、どうかと思う。もちろん、歌いたいことやサウンドの志向が変わるのは、よくあること。だが、きのこ帝国は、「クロノスタシス」というヒップホップの要素を打ちだした曲、あるいは「FLOWER GIRL」のように、音響面での実験を果敢におこなうなど、引きだしの多さも特徴であり魅力だった。


 本作を聴いて強く思ったこと。それは、その魅力まで封印する必要はなかったのでは? ということ。きのこ帝国は、本作で見せた親しみやすさを保ちつつ、サウンド面の多様性も発揮できるポテンシャルを持っているのだから。そういった意味で本作は、きのこ帝国の才能がフルで解放されているとは言いがたい。というわけで、最後は愛情を込めてこの一言。


 これでいいのか? きのこ帝国!



(近藤真弥)

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