November 2015アーカイブ

2015年11月16日〜29日

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2015年11月16日〜29日 更新分レヴューです。

きのこ帝国『猫とアレルギー』
2015年11月21日 更新
ELO『Jeff Lynne's ELO - Alone In The Universe』
2015年11月28日 更新
ONEOHTRIX POINT NEVER『Garden Of Delete』
2015年11月28日 更新

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Oneohtrix Point Never『Garden Of Delete』.jpg

 ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーことダニエル・ロパティン。彼の音楽にこそ、孤高という言葉が相応しい。ビートに依拠することなく、エフェクトや奇異な音響空間によってグルーヴを生みだしていくそのスタイルは、多くの人を驚かせた。ゆえにフォロワーが続出してもおかしくないが、いまのところ、〝OPNフォロワー〟と明確に言えるアーティストは現れていないように思う。彼の作品を聴いて、エフェクトの使い方や音響空間の作り方を模倣することは可能だろう。だが、こちらの予想をことごとく裏切りながら、音の抜き差しをしていくあのセンスは、ダニエルだけの特権。だからこそ彼は、同時代性や流行にとらわれない場所で、驚きに満ちた音楽を鳴らしている。


 そんなダニエルの最新アルバム『Garden Of Delete』は、自ら同時代性に接近したという意味で、非常に興味深い内容だ。実は筆者、本作についてダニエルに質問をする機会があった。その答えのなかで特に面白かったのは、テイラー・スウィフトはクールだと感じていること(それ以上にクールなのは初音ミクだそう)、そして、ナイン・インチ・ネイルズとツアーしたのがインスピレーションになったということ。また、自分なりのポップ・ソングを作ろうとしたという話にも、驚かされた(※1)。


 ダニエルは本作を作るにあたって、お金がたっぷり注ぎこまれたビッグなポップ作品に関わっている人たちとのコラボレーションも考えたという。しかしダニエルいわく、そのような人たちは会おうともしないらしく、クレジットのことしか頭にないらしい。文字通り、怒り爆発。こうした反骨精神が、本作には多分に含まれている。その結果生まれたのが、ダニエルなりのポップ・ソングを詰めこんだ本作というわけだ。


 この怒りについて、もう少し掘りさげてみる。まず、ダニエルの音楽的嗜好は、実に多様だ。本作を作るヒントになったアーティストやバンドに、オウテカ、ブラック・サバス、ナイン・インチ・ネイルズなどを挙げ(※2)、先にも書いたように、テイラー・スウィフトや初音ミクも好む。同時に、本作でもサンプリングされている、90年代のインダストリアル・バンドであるグロータスや、クラシック音楽家ジョン・アダムスの作品も聴く。音楽に対して寛容な姿勢を持つダニエルからすれば、クレジット云々を気にする輩の思考回路などナンセンスだろう。そこには、寛容性に繋がる自由がないからだ。そう考えると、本作のアグレッシヴなサウンドは、その自由を称揚しているようにも聞こえる。


 本作は果たして、どのカテゴリーに入るのか。テクノ? アンビエント? ノイズ? メタル? IDM? 答えは、そのすべて。そのすべてが、本作にはある。どこまでも細切れにされ、撹拌された形で。ダニエルは、既存のセオリーや常識にとらわれない。当然、メジャー/インディーという形骸化した二項対立にも。むしろ、そうした安易な構図やレッテルから抜けだそうと常に試みる。そのためには、聴き手の予想だって裏切ってみせる。なんとも痛快じゃないか。


 この痛快さからわかること。それは、ダニエルもまた、「既存の価値観や固定観念を解きほぐす存在」だということ。ん? この言葉、どこかで書いた記憶が...。そう、グライムス『Art Angels』のレヴューでしたね。ダニエルとグライムス、共通点も多い。ナイン・インチ・ネイルズやテイラー・スウィフトが好きで、共に最新作ではど真ん中のポップ・ソングに接近し(ダニエルのそれは、かなりひねくれた形だけども)、その作品を同じ年にリリースしている。これ、面白い共振だと思いませんか? 


 本作はアルカよりも、グライムスやテイラー・スウィフトと一緒に語ったほうが、より多彩な表情が浮かびあがると思う。



(近藤真弥)




※1 : 『bounce』385号掲載、筆者によるワンオートリックス・ポイント・ネヴァーの記事を参照。



※2 : 『ミュージック・マガジン』2015年12月号掲載、筆者によるワンオートリックス・ポイント・ネヴァーの記事を参照。

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ELO_Jeff Lynnes ELO_Alone In The U_J.jpg

 子供のころ、自分が50歳以上まで生きられるなんて思ってなかった。いや、それは大げさにしても、当時の親の年齢(30~40代)以上の自分の姿など想像もできなかった。まあ、今現在70代とか80代である親が、ときどき「自分らは先が長くないからねえ」とか言う辛気くささがちょっと鼻につくこともあるし、生き死にの話はこれくらいにしておこう。とにかく、そんな感情を持っていたガキ、思春期のころから夢中になって聴いていたELO、エレクトリック・ライト・オーケストラ、もっと正確に言えば今回は中心人物自らの名前を冠したJeff Lynne's ELO待望のニュー・アルバム。1曲目が「When I Was A Boy」ゆえ、つい先ほどのようなことを言いたくなってしまった(笑)。そして、その曲の素晴らしさに度肝を抜かれた。


 今回は前作『Zoom』から約15年ぶり、前々作『Balance Of Power』から約30年ぶり。もちろん70年代初頭から、ジェフ・リンがプロデューサーとしてもスーパー・ビッグになってしまった80年代後半(つまり前々作のころ)までは、2~3年に1枚という普通のペースでアルバムを出していた。


 こういうパターンだと、最も心配されるのはレイド・バックしちゃってること。まあ「枯れた味」というニュアンスでの褒め言葉的に使うこともあるロックの世界ではいいのかもだけど、ガキのころにパンクを通過した自分は、それが少々苦手。そしてポップ・ミュージックがレイド・バックしたら、かっこわるくない? とりわけ、デビュー時からずっと、その都度の先端電気技術とオーケストラルな大風呂敷感をうまく融合させつつ、いい意味での売れ線ポップ・ロックをやってきた彼らにとっては。


 冒頭曲を聴いて、そんな杞憂はふっとんだ。ぼくのような年増耳を持つ者は、「ちょい待ち、これ、ELOっつーより、ビートルズっぽくないですか? あっ、でもそれはジェフがからんだときのやつだわ。だから、あれ、ビートルズの『アンソロジー』プロジェクトで、残された未発表曲をジェフがプロデュースしたときの...」なんて連想が一瞬にして頭をかけめぐってしまう。


 ELOにせよ、ポール・マッカートニー自身のウィングスにせよ、70年代時点でのポップ志向ロックはどうしても解散済のビートルズと並べられ、「それに比べりゃ、ださくない?」と評されがちだった。ジェフはインタヴューなどでビートルズに対する深い愛を口にしていただけに、なおさらのことだ。しかし、逆に今となっては、そして「When I Was A Boy」なんて曲でこれをやられると、逆にかっこよすぎ。だって、そうでしょ? ジェフはある意味、子供のころの夢のひとつを、たとえばビートルズ本体とからむようになった80年代後半から90年代前半にかけて、堂々とかなえてしまったのだから。それを、決して自慢げにではなく、むしろちょっとばかり儚げな情感もこめて、それでも堂々と歌っている。なんて、かっこいいジジイなんだ。


 アルバム全体のサウンド/アレンジ的には、まるで当時のトラウマをかき消すように、そろそろ「最先端であること」が厳しくなってきた『Secret Messages』(1983年)の「骨太さ」と、『Balance Of Power』における「身軽さ」が、実にほどよくブレンドされ、かつてジェフもメンバーとなっていたトラヴェリング・ウィルベリーズに通じる部分もある。少なくとも80年代以降のELOの最高傑作であるとは即座に断言できる。


 さらにいえば、タイトルとアートワークが...。


『スター・ウォーズ』でもりあがる世間を尻目に、その第一弾とほぼ同時期に公開されたSF映画『未知との遭遇』のキャッチ・コピー、「We are not alone(我々はひとりぼっちじゃない:人類は宇宙/世界で孤立してるわけじゃない)」を思いだす。それへの、ちょっと皮肉っぽい返答になりえている。いや、そうとも言いきれない。だって、カヴァー(ジャケット)写真では、ちゃんと「誰か」が迎えにきてくれてるじゃないか。


 70年代後半当時、『スター・ウォーズ』派というより、どちらかといえば『2001年宇宙の旅』『宇宙大作戦(スター・トレック)』『未知との遭遇』派だったぼくは思う。ちょっと、見事すぎじゃね? 泣きたくなるほど、いい意味で。



(伊藤英嗣)

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さて、いまさら...と思われてしまうかもですが、表題の件、ようやくアップします。編集部犬飼さんは、もちろん8月か9月くらいには原稿をあげていてくれたのですが、ここまで遅くなってしまったのは、ぼくの責任です。本当に、すみません。

ここには、ライドのレポもあります。せめて、彼らの秋の単独来日までには...と思っていたのですが、まさに直前になってしまった。これまた、すみません。

なお、ぼく自身はライドにも、なぜかほぼ同時に来日するザ・ジーザス&メリー・チェインのショウにも行けなさそう。ひどく残念だ...。でも、いろいろ忙しいからしかたない。もし自分が「どちらか」にしか行けないのであれば、たぶん...メリー・チェインを選んだ気もしますが(本当、ひねくれものだな、おれ:笑)。

(伊藤英嗣)


【編集部補足:2015年11月22日17時30分】先ほどクリエイション・マネジメントからフェイスブックで公開された情報によれば、今回のメリー・チェイン日本公演は、ウィリアム・リードの急病により延期、とのこと...。この情報に「誤り」があった場合、またさらなる「補足」をおこないますが...。いやはや、なんとも...。



このThe Kink Controversyは基本的に読者の方々からの原稿を掲載する場として作られたコーナーです(が、「関係者」が投稿することもあります)。

投稿時の主なルールは以下のとおりです。

・文字数は最低でも1000字以上。

・原稿の内容は、音楽に関することを主題にお願いします。ただ、主題と文脈的に繋げられるなら、アニメ、映画、小説、哲学など、他要素を混ぜても問題ありません。

・掲載する際には、投稿されてから10日以内に編集部のほうから連絡させていただきます。連絡がない場合は、申し訳ないのですがボツということになります。

・ ライヴ写真などの画像類を掲載する場合には「権利者の許諾」が必要になります。その作業は「かなり大変」であることも少なくありません。それゆえ、申し訳 ありませんが写真は送らないでください。場合によっては編集部で画像をそえることもありますが「投稿自体はテキストのみ」でお願いします。

・送っていただいた原稿の表記については、クッキーシーンにおける表記統一の決まりに合わせるため、編集部側で変えることもあります。それらがあまりに大量になったり、それによって文章のトーンが変わってしまう場合など問題があると判断した場合も、編集部のほうから連絡させていただきます。

音楽について語りたい欲求がある若者から、いまだ中二病が心に残っているせいで音楽にロマンを求めてしまう大人になりきれない大人まで、どんな方でも大歓迎。FEEDBACKから投稿できます。

皆さまからの熱い原稿を心からお待ちしております!


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猫とアレルギー.jpg

 今年4月にリリースされたシングル、「桜が咲く前に」を聴いたときから、予感はあった。この曲には、きのこ帝国のトレードマークである、聴き手の胸ぐらを掴むような轟音がほとんどなかった。親しみやすいシンプルなメロディーに、 耳馴染みがよいアコースティック・ギターの響きを際立たせたサウンド。一瞬、『eureka』(2013)収録の「風化する教室」みたいとも感じたが、「風化する教室」にあった、ヒリヒリとする緊張感やシニシズムはない。かといって、『フェイクワールドワンダーランド』(2014)と地続きだと思うには、あまりにも距離がありすぎる。「こりゃあ、次のアルバムはどうなるんだろう?」。怖いもの見たさという、一種の不安を抱きつつ、筆者はきのこ帝国の最新アルバムを楽しみに待っていた。


 そして、『フェイクワールドワンダーランド』から約1年。届けられた最新アルバムが本作だ。タイトルは、『猫とアレルギー』。本音を言えば戸惑った。メンバー全員が猫を抱える新しいアーティスト写真も、面白いというよりは、頭にクエスチョン・マークがたくさん浮かぶものだった。


 とはいえ、肝心の内容は、悪くない。むしろ良いアルバムだと思うし、これまでも窺えた高いソングライティング能力を堪能できる内容だ。メロディーもシンプルなものが多く、きのこ帝国史上もっとも親しみやすいものに仕上がっている。歌詞は平易な言葉が目立つ。まさに、「桜が咲く前に」のような曲がほとんど。まさか、アルバム全体がそのようになるとは...。しかし、「YOUTHFUL ANGER」は異質なものとなっている。ヴォーカルはノイズのなかに埋もれ、〈褒められなくたっていいや 飼いならされるよりはマシ〉と歌われる歌詞は、攻撃的だと言える。サウンドも、初期のニルヴァーナに通じるラウドなもの。いわゆるグランジというやつだ。ちなみに「YOUTHFUL ANGER」、きのこ帝国の変化に戸惑った筆者のような者に向けた曲だと思うのだが、どうだろう?


 正直、ここまでスロウな曲を揃えてしまったのは、どうかと思う。もちろん、歌いたいことやサウンドの志向が変わるのは、よくあること。だが、きのこ帝国は、「クロノスタシス」というヒップホップの要素を打ちだした曲、あるいは「FLOWER GIRL」のように、音響面での実験を果敢におこなうなど、引きだしの多さも特徴であり魅力だった。


 本作を聴いて強く思ったこと。それは、その魅力まで封印する必要はなかったのでは? ということ。きのこ帝国は、本作で見せた親しみやすさを保ちつつ、サウンド面の多様性も発揮できるポテンシャルを持っているのだから。そういった意味で本作は、きのこ帝国の才能がフルで解放されているとは言いがたい。というわけで、最後は愛情を込めてこの一言。


 これでいいのか? きのこ帝国!



(近藤真弥)

2015年11月2日〜15日

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2015年11月2日〜15日 更新分レヴューです。

TRACEY THORN『Solo: Songs And Collaborations 1982-2015』
2015年11月2日 更新
GRIMES『Art Angels』
2015年11月13日 更新

GRIMES『Art Angels』(4AD / Hostess)

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GRIMES『Art Angels』(4AD : Hostess).jpg

 ビヨンセやロードが自らをフェミニストだと公言し、同性愛者であることを告白しているサム・スミスは、第57回グラミー賞で4冠を果たした。チャーチズのローレン・メイべリーは、ネット上での女性蔑視に対する批判を積極的に語り、音楽以外でも興味深い活動をおこなっている。


 一方で映画界。マシュー・ヴォーンの『キングスマン』(2014)は、誰を生かすか恣意的に決める傲慢な強者の選民思想にNOを突きつけ、ナンシー・マイヤーズの『マイ・インターン』(2015)は、〝男らしさ〟や〝女らしさ〟といった、従来のジェンダー観に疑問を投げかけた。スタイリッシュな映像と共に、マイノリティーが受ける抑圧を描いてみせるグザヴィエ・ドランも忘れてはいけない。映画『マトリックス』シリーズで知られるウォシャウスキー姉弟が、ジェンダー、差別、偏見、貧困などさまざまなテーマを取りいれたドラマ、『センス8』(2015)という傑作を作りあげたのも記憶に新しい。


 そして、アンドレイ・ペジックやハリ・ネフなど、トランスジェンダーのモデルが世界を席巻していたりもする。これが、2015年のエンタメ界、ひいてはポップ・カルチャーの現在だ。


 こうして昨今のエンタメ界やポップ・カルチャーをざっと眺めてみると、既存の価値観や固定観念を解きほぐす動きが目につく。そのなかで多彩な表現が多く生まれ、面白い動きもたくさん見られる。もちろん筆者は大歓迎だ。最近よく見かける〝ポリティカル・コレクトネス〟という言葉にしても、表現の幅を狭めるものではなく、表現の幅をより豊かにするための概念だと思う。〝昔は許されたのに!〟みたいな言い訳で、〝ポリティカル・コレクトネス〟を否定するなんて愚の骨頂。


 しかし、こうした世界的な動きに、ここ日本は追いついていないように思える。たとえば、先日公開されたばかりの『ギャラクシー街道』。この映画は三谷幸喜によるものだが、〝スペース・コメディー〟という体裁を隠れ蓑に展開される性的表現がいちいちゲスい。これでは、差別や偏見に満ちていると言われてもしょうがない。特に、登場人物のひとりムタの描写なんて、買春そのもの。またひとつ、「いまは2015年だぞ...」と呆れはてる映画が生まれてしまった。フジテレビのドラマ『問題のあるレストラン』や、現在日本テレビで放送中の『偽装の夫婦』など、興味深い作品もあるにはある。だが、牛を擬人化したことで問題となった『ブレンディ』のCMを見てもわかるように、まだまだ日本では、ジェンダー、差別、偏見、さらにはこれらの根幹となる人権意識が低いと言わざるをえない。


 グライムスことクレア・バウチャー。彼女は、3枚目のアルバム『Visions』(2012)を4ADからリリースしたことがキッカケで、世界的なポップ・スターになった。1枚目の『Halfaxa』(2010)、2枚目の『Geidi Primes』(2010)と、基本的に彼女の作品はすべて歌もの。ただ、『Visions』が前2作と決定的に違ったのは、彼女のヴォーカリストとしての表現力が格段に高まり、メロディーを強調した曲も多かったこと。ゆえに『Visions』は、多くの人に届くキャッチーさを獲得できた。デビュー時からカルト的な人気を得てはいたが、『Visions』によって、その人気を幅広いものにしたというわけだ。


 一方で彼女は、歯に衣着せぬ発言でも注目を集めてきた。性差別を受けたことで音楽業界に対して幻滅したとFADERに語り、2014年には、筋萎縮性側索硬化症協会への寄付を募る活動として、日本でも話題になったアイス・バケツ・チャレンジを拒否した。拒否した理由について彼女は、当時カリフォルニア州で起こっていた水不足の問題を引きあいに、そうした問題があるのに水を浪費するのは適切じゃないと語っている。代わりに彼女は、教育こそが世界中に蔓延るさまざまな問題を解決するために重要として、マララ基金に寄付した。さらに最近では、地元カナダで今年10月におこなわれた総選挙へ行くよう呼びかけた。彼女は、スティーヴン・ハーパー前首相(と彼が率いる保守党)を退かせたいという立場だった。その右翼的な政策に多くのカナダ国民が不満を持っていたようだが、彼女もそのひとりだったのだろう。反同調圧力的に、自分の意見を積極的に語る彼女の姿勢は、なにも突然生じたわけではない。たとえば、先述したFADERのインタヴュー以前にも、自身のタンブラーなどで女性アーティストに対する性差別や偏見への怒りを述べている。このような姿勢をさまざまな形で示している彼女もまた、「既存の価値観や固定観念を解きほぐす動き」を象徴するひとりなのは言うまでもない。ちなみに、同じくカナダ出身のグザヴィエ・ドランも、ハーパーには良い印象を持っていなかったようだ。保守党が総選挙で負けたため、首相の座から降りることになったハーパーへ向けて、ツイッター上でユーモアたっぷりの〝バイバイ〟をプレゼントしている


 『Visions』以来となる彼女のニュー・アルバム、『Art Angels』を繰りかえし聴いている。端的に言うと本作は、2010年代を代表するアルバムの1枚であり、傑作だ。まず、『Visions』以上にポップでキャッチーな曲が多いことに驚かされる。歌メロやシンセ・リフは〝ベタやなあ〟っと呟きたくなるほどシンプルで、1度聴けば覚えてしまう。かつてのカオスは一切ない。文字通り、ど真ん中のポップ・ソング集。MVで先行公開された「Flesh Without Blood」なんて、テイラー・スウィフトの「Shake It Off」を想起させる曲調だ。ビートも、なんとなく似ているような...。ヴォーカリストとしての表現力にも、ますます磨きがかかっている。全曲歌い方が異なり、それゆえこれまでの作品群とは比べ物にならないほどカラフルなヴォーカルを楽しめる。


 ヴォーカルといえば、「REALiTi」での歌い方がすごく面白い。それは次の箇所。


〈Oh, baby, every morning there are mountains to climb  Taking all my time Oh, when I get up, this is what I see Welcome to reality〉(「REALiTi」)


 この箇所での歌い方が、さながらJ-POPなのだ。日本のポップ・ソングには、日本語の特性上、メロディーの1音に対して1文字を割りあてたものが多い。一方で英語の場合、1音に対して1単語を割りあてたものがほとんどだが、この箇所だけは、メロディーの1音に対して1文字を割りあてたものに近い。だからこそ、〝さながらJ-POP〟と言ってみた。もちろん、日本語と英語は特性が異なるため、〝まったく同じ〟というわけではない。とはいえ、〝似ている〟というだけでも興味深いと思う。彼女は、インタヴューなどで日本のカルチャーに対する愛を幾度も公言しているが、その愛を深めるなかでJ-POPに触れていても不思議ではない。逆に、子音が強調されることで、日本語でも英語的に聞こえるのが宇多田ヒカルの「Automatic」(1999)。この曲と「REALiTi」を関連させて、いろいろ考察してみるのも面白そう。


 Entertainment Weekly(エンターテイメント・ウィークリー)のインタヴューで彼女は、本作の曲はヴァンパイアのギャングの視点から書かれたと語っている。いわば本作は、寓話的な性質を持った作品だというわけだ。しかし、ラストを飾る「Butterfly」は、このような一節で幕を閉じる。


〈If you're looking for a dream girl I'll never be your dream girl(もしあなたが理想の女の子を探しているとしても 私はあなたの理想の女の子には絶対にならない)〉(「Butterfly」)


 この一節は、グライムスでもヴァンパイアのギャングでもない、クレア・バウチャーというひとりの人間による力強い宣言だ。すでに何度か引用したFADERのインタヴューで彼女は、芸術に関しては誰かに合わせる必要はない、でも人には見てもらいたいという旨を率直に述べている。こうした考えは、作品はもちろんのこと、ライヴ・パフォーマンスにも表れている。ポップ・スターになり、たくさんの人脈を得た現在でも、彼女は基本的にひとりで機材を操り、マイクを握る。筆者は彼女のライヴを生で観たことあるが、その姿は本当に忙しない。YouTubeなどで観れるライヴ映像では、汗だくな姿も見た。それはまるで、〝自分はここまでできる!〟ということを必死にアピールしているかのよう。なぜ、ここまで必死になれるのか? 音楽業界で味わった性差別、あるいはもっと純粋な承認欲求、さまざまな要因が複雑に絡んでいるのだろう。だから筆者には答えがわからない。それでも確実に言えるのは、彼女にとって境界線など存在しないに等しく、だからこそ〝自由〟だということ。それは、ヒップホップ、テクノ、インダストリアル、ロックなどが細切れにされたうえで交雑した、彼女の音楽性からもうかがえる。以前、『Visions』のレヴューでも書いたことを引用すれば、「歴史やルールから逸脱」したポップ・ミュージック。現在27歳の彼女は(奇しくも筆者と同い年)、ナップスターのような音楽サービスが子供の頃からあった世代。その世代が音楽を作るようになった2010年代から、ひとつのジャンルでは括れない、キメラのようなポップ・ミュージックが急激に増えたのは、おそらく偶然じゃない。くわえて彼女は、音楽制作に関する教育を一切受けていない。このことも、セオリーや常識とされるものにとらわれない音楽性に繋がった一因だろう。そんな彼女が、2010年代を代表するポップ・スターになり、「既存の価値観や固定観念を解きほぐす」存在となったのは、必然なのだ。


 2015年11月4日、カナダで10年ぶりの政権交代を果たした自由党のジャスティン・トルドー新首相が、新内閣発足の会見をおこなった。この内閣が注目を集めたのは、男性15人、女性15人の男女同数だったこと。さらに、若手からベテランまで幅広い選出がなされ、アフガン難民としてカナダに移住してきたマリアム・モンセフや、先住民の血を引くジョディ・ウィルソン・レイブルドなど、顔ぶれが多彩なのも驚きだった。このような内閣にした理由を記者に訊かれたトルドーは、こう答えたという。


「2015年だからね(Because it's 2015)」(※1)


 世界は確実に変化している。



(近藤真弥)



【編集部注】『Art Angels』の国内盤は12月11日リリース予定です。



※1 : この発言が飛びだした新内閣発足会見の様子は、CBCのニュース記事で見れます。

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TRACEY THORN『Solo- Songs And Collaborations 1982-2015』.jpg
 寂しさに心を支配され、何かにすがりたいという気持ちになったとき、ひたすらポジティヴな歌声よりも、陰りがある歌声を求めてしまう。単一的なポジティヴィティーよりも、哀しみも含む多彩な感情表現のほうが、心に潤いをもたらしてくれるから。例をあげると、エコー・アンド・ザ・バニーメンのイアン・マッカロク、ジョイ・ディヴィジョンのイアン・カーティス、そして、エヴリシング・バット・ザ・ガールのトレイシー・ソーンなどなど。仕事柄、家から遠く離れた場所へ行くことも多いが、どこへ行くにしても、いま挙げた3人の作品は必ず持ち歩くようにしている。


 その3人のなかのひとり、トレイシー・ソーンが、ベスト・アルバムをリリースした。名は、『Solo: Songs And Collaborations 1982-2015』。本作は彼女のソロ活動に焦点を絞り、オリジナル楽曲を集めたディスク1、他のアーティストとコラボした曲やリミックスをまとめたディスク2の計2枚で構成されている。エヴリシング・バット・ザ・ガールはもちろん、かつて彼女が在籍していたバンド、マリン・ガールズの楽曲も収録されていない。もしかすると、この点に批判的な人も少なからずいるだろう。


 しかし、優れたソングライターとしての側面、さらに魅力的な歌声を持つヴォーカリストとしての側面を存分に堪能できるという意味では、とても素晴らしい作品だと思う。ディスク1は、まだオリジナリティーを確立するには至っていない初期の楽曲から、成熟を感じさせる深い楽曲まで、実にさまざまな面を披露してくれる。ただリリース順に並べたわけではなく、作品としての流れを重視した曲順なのも、彼女の強いこだわりが感じられる。彼女のソロ作品をコンプリートしている者も、新鮮さを感じる内容だと思う。


 ディスク2では、彼女の歌声が持つ高い順応性を見せつけられる。マッシヴ・アタック「Protection」から始まり、ラストのアダムF「The Tree Knows Everything」まで、ディスコ・クイーンなトレイシー・ソーンを楽しむことができる。あるときは冷ややかに、あるときは柔らかく、そしてあるときは優しくといった具合に、いろんな感情が渦巻いている。特筆したいのは、ジ・エックス・エックス「Night Time」のカヴァー。原曲はダークでメランコリックな曲調だが、彼女はそのメランコリックな部分を受け継ぎつつ、より華やかな景色を描いてみせる。



(近藤真弥)



【編集部注】国内盤は11月13日リリース予定。

2015年10月19日〜11月1日

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2015年10月19日〜11月1日 更新分レヴューです。

LANA DEL REY『Honeymoon』
2015年10月19日 更新
KATE SIMKO & TEVO HOWARD『PolyRhythmic LP』
2015年10月26日 更新
LITTLE SIMZ『A Curious Tale Of Trials + Persons』
2015年10月26日 更新