NICOLE DOLLANGANGER『Natural Born Losers』(Eerie Organization)

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 カナダのシンガー・ソングライター、ニコル・ドールアンガンガー。彼女のことを知ったのは、音源ではなくインスタグラムがキッカケ。友人に「おもしろいセンスの写真をアップする人がいる」と教えてもらい、それがニコルだった。さっそく、彼女のインスタグラムを覗いてみると、ゴスロリの格好をした彼女自身、愛犬のパグ、メルヘンチックな自室など、さまざまな被写体が並べられていた。それらから漂ってくる雰囲気はどこか病的なものだったが、筆者の興味を強く引きつける切実な〝ナニカ〟も漂わせていた。


 そこで、彼女のバンドキャンプにアップされている作品を、一通り聴いてみた。まずは、コロンバイン高校銃乱射事件をモチーフにしたカヴァー集「Columbine EP」(2013)。犯人が影響を受けていたとされたマリリン・マンソンのカヴァーを収録し(※1)、ジャケットには事件当時の写真を使うという徹底ぶり。他には、作家/イラストレーターのエドワード・キャリーによる著作、『Observatory Mansions』(2001)からタイトルを拝借した『Observatory Mansions』(2014)や、日本のヴィデオ作品シリーズ、『ギニーピッグ』の英題と同名の『Flowers Of Flesh And Blood』(2012)など、カルチャー全般への興味をうかがわせる作品もあった。しかも、曲のほとんどが彼女の弾き語り。これは面白いということで、彼女の作品はしばらくの間、筆者の耳を占領することになった。


 そんな彼女が、グライムスが設立したレーベルEerie Organization(イーリー・オルガニゼーション)から最新アルバムを発表した。タイトルは、『Natural Born Losers』。彼女のことだから、オリバー・ストーンの映画『Natural Born Killers』(1994)をネタにしたのだろうか? この映画は、ヴァイオレンスな描写が特徴の作品だが、本作も随所で似たような描写が登場する。なにしろ、1曲目「Poacher's Pride」の歌いだしが、〈私は父のライフルで天使を撃った(i shot an angel with my father's rifle )〉(※2)である。本作の歌詞は、ドラッグや銃といったキーワード、くわえて宗教的な世界観が際立つものになっている。全体としては、聖と俗を行き来している印象だ。このような歌詞を彼女は、美しくも儚いウィスパー・ヴォイスで紡いでいく。ただでさえ痛々しい歌詞が、彼女の歌声によってさらに痛みが増している。正直、聴いていて重苦しい気分になってくる。ところが、メロディーはやたらと人懐っこい。誰かに私を見つけてほしいとばかりに、とてもキャッチーだ。しかし、そのおかげで、なおさら痛々しさが沁みてしまう。


 それでも、筆者が本作を繰りかえし聴いてしまうのは、彼女の病的な振るまいやヴィジュアル・センスが表層的ではないからだ。たとえば、8曲目の「American Tradition」。日本語では〝アメリカの伝統〟と訳せるこの曲は、寓話という形でアメリカに対する批評眼を発揮しているように思えるし、そもそも全曲、日々の生活で見逃されがちな機微を掬いあげたような言葉であふれている。それは言うなれば、痛み、哀しみ、慈しみが交わる極上のリリシズム。そして、このリリシズムに宿るのは、〝愛と憎しみは紙一重〟を体現するヒリヒリとした緊張感。


 このように本作は、危ういバランスのうえに成り立っている。さながら、孤独に耐えながら必死に立ちあがろうとする、弱々しくも凛々しい姿。そこに、グライムスやスカイ・フェレイラのような鼻っ柱の強さはない。あるのは、心を剥きだしにしたニコル・ドールアンガンガーという人間だけだ。しかし、そんな作品が、聴き手の心を揺さぶる多彩な情動で満ちているという事実に、ただただ感動する。なぜならこの事実は、〝生きる〟ことそのものが、何よりもドラマチックで尊いということを証明しているからだ。




(近藤真弥)




※1 : のちの報道で、影響を受けていなかったことが明らかになっている。


※2 : ニコルのバンドキャンプに掲載されている歌詞から引用しました。

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