STEREOPHONICS『Keep The Village Alive』(Ignition / Sony Music)

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 今年41歳になるヴォーカルのケリーは、子供の頃に住んでいた南ウェールズにある小さな炭鉱村、つまり自身のルーツに立ち返るためにこのアルバムに『Keep The Village Alive』というタイトルをつけた。そして、サウンドは自然とシンプルで強いものになり、それはたとえば新曲で8ビートのロックンロールを披露した同郷のフラテリスと共鳴している。1曲目の「C'est La Vie」のヴィデオを初めて観た時に、これは何事かと思った。パーティーで男2人が散々暴れまわった挙句、女友達は愛想を尽かして部屋から出て行くのだけど、それにも構わず彼らはダンスしつづけ、最後はバンドと戯れてエンディング...という、時代錯誤感すら漂うこの映像。そして、まるでジ・エネミーが2007年に〈僕は現実逃避したい〉と歌っていた時と同じ勢いで、ステレオフォニックスは〈人生なんてこんなもんだ〉というフレーズを言い放つ。仮に、わずかなコードだけで突き進むこの曲をビーディー・アイが手にしていたとしたら、解散の憂き目に合わずに済んだかもしれないと思うほど、瑞々しい輝きを放っている。


 もう1曲、近年ヘヴィーなバラッドが目立っていた彼らの個性からは意外だったライトなタッチの「I Wanna Get Lost With You」。〝僕と君〟という小さな物語に優しく寄り添ったこのメロディーは、これからも時々振り返りたくなるに違いない。こちらも冴えない男女二人が恋に落ちていく過程を撮ったノスタルジックな風合いのヴィデオが用意されている。他の楽曲にも言えることだけど、特にテーマが重要なわけではなく、そこにあるのは音楽のみ。意味にまみれた2015年にこの作品をドロップするとは、何というか、さすがステレオフォニックス、という気がする。


 時代との接点を模索することではなく、自分達が〝どこから来て、どこへ帰っていくのか〟を掘り下げること。他人の言葉に翻弄されず、潔く自分の道を選びとること。デビューから20年近く経ったいま、彼らは最も確信めいたサウンドを手にしている。それはステレオフォニックスというバンドがサヴァイヴした証拠に他ならない。だが、このレコードを古参のファンだけが耳にしているのは勿体無い。このプロセスはアイデンティティーを上書きすることがアイデンティティーになっている20代の僕たちにも、フェイクじゃない勇気をあたえてくれるから。その入口になるために、たとえば、彼らのライヴでもハイライトに欠かせない名曲「Dakota」を今年Galileo Galilei(ガリレオ・ガリレイ)が日本語でカヴァーしたように、今作の「I Wanna Get Lost With You」も誰かカヴァーして欲しい。今ならAwesome City Club(オーサム・シティー・クラブ)かYkiki Beat(ワイキキ・ビート)のヴァージョンが聴いてみたいな...。



(長畑宏明)

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