柴田聡子『柴田聡子』(P-Vine)

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 柴田聡子の最新アルバム、『柴田聡子』。本作は、さまざまな人たちを描く多彩な作品に仕上がっている。柴田聡子は、2010年から活動を始めたシンガー・ソングライター。これまでに、『しばたさとこ島』(2012)、『いじわる大全集』(2014)という2枚のアルバムを発表しているが、ライヴ盤や7インチ・シングル、さらにGofishトリオと柴田聡子としてもリリースをするなど、多作なアーティストだ。


 前作『いじわる大全集』は、全編弾きがたりのセルフ・レコーディングだったが、本作は初のバンド編成で作られた作品。山本精一をプロデューサーに迎え、一楽誉志幸、須藤俊明、西滝太というゲスト・ミュージシャンが参加している。本作での柴田聡子は、メロディーに寄りそう歌い方を披露するなど、これまであまり見られなかった側面を見せてくれる。とはいえ、間奏が少ない曲が多いのは、やっぱソロで活動してきたシンガー・ソングライターだよなと感じる。


 ポップスとしての親しみやすいメロディーが際立つのは、作品全体の舵取りを山本精一に託し、柴田聡子は歌に集中したからだと思う。その親しみやすいメロディーが顕著に表れるのは、先行でMVが公開された「ニューポニーテール」だろう。この曲の譜割り、NHK Eテレの子ども番組で子どもたちが歌っていてもおかしくないほど、歌いやすい。歌詞の内容は、小さじ2杯くらいの毒と狂気をまぜたピリ辛味だが...。


 歌詞といえば、本作に登場する人物はみな、どこかひとりぼっちな雰囲気を漂わせている。全13曲、そのすべてがほんのり寂しさを滲ませ、風が吹けば飛んでいってしまいそうな、か細さを見いだせる。消えいるように〈オリンピックなんてなくなればいいのにね〉と呟かれる「ぼくめつ」などは、どたばた続きの2020年東京オリンピックに関することを想像させ、本作のなかでは唯一明確な〝反抗〟を感じさせる曲だ。それでも、その呟きが右から左に流れるなかで(より具体的に言えば、パンニングを操作して右から左に流している)、どこかの街の風景を描写したような歌詞が歌われるという構成は、呟きが雑踏のなかに紛れてしまう哀しさを醸しており、切なくなってしまう。


 だからといって、本作にネガティヴな印象を抱くわけではない。むしろ、バラバラな風景や言葉を並べることで見えてくる多彩さに、感動させられる。ひとつひとつの風景や言葉は、多くの人にとっては些細なことかもしれない。だが、そんな些細なことがたくさんあり、その後ろにはたくさんの人々が生きているという事実に、筆者は心を揺さぶられてしまう。こうした感動をもたらしてくれるのは、お世辞にも穏やかとは言えない今の日本で生活するなかで忘れがちな、活き活きとした〝小さい声の集まり〟である。このような集まりを浮かびあがらせる本作は、多くの人に優しさと勇気をあたえるだろう。


 幸せへと続く道は、案外近くにあるものだ。よくよく考えれば当たりまえかもしれないが、そんな当たりまえで忘れがちなことを、本作は想いださせてくれる。希望は常に、あなたの隣で待っている。



(近藤真弥)

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