HELENA HAUFF『Discreet Desires』(Werk Discs / Ninja Tune)

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 ポスト・パンクの進化は止まらない。前作『A Tape』から約7ヶ月、ヘレナ・ハウフの最新アルバム『Discreet Desires』を聴いていると、そう思わざるをえない。ここ数年、Minimal Wave(ミニマル・ウェイヴ)などを中心としたカルト・ニュー・ウェイヴのリイシュー・ブーム、トレヴァー・ジャクソン監修のコンピ『Metal Dance Industrial / Post-Punk / EBM Classics & Rarities 80-88』『Metal Dance 2 Industrial New Wave Ebm Classics & Rarities 79-88』のリリース、さらに、ポスト・パンクの代表的なバンド、ザ・ポップ・グループが35年ぶりの新作を発表するなど、ふたたび〝ポスト・パンク〟という言葉を目にする機会が多くなった。


 そのなかで興味深いのは、ポスト・パンクを語るうえで欠かせないジャンル、EBM(エレクトロニック・ボディー・ミュージック)再評価が進んでいること。たとえば、昨年リリースされたI.B.M.『Eat My Fuck』は、Modern Love(モダン・ラヴ)などが中心となったポスト・インダストリアル・ブーム以降の流れと共振しつつも、マシーナリーなビートを強調した作風はEBMそのものだった。そして、ファンキンイーヴンの別名義セント・ジュリアンによるシングル「A16」は、EBMが再注目されている流れとベース・ミュージックの接続という面白い試みをおこなっている。こちらも見逃せない動きだ。


 といったところで、肝心の『Discreet Desires』だが、本作はヘレナのポスト・パンクな側面がいままで以上に表れた作品である。前作のメインであったアシッディーな音色も、サイボトロン的なエレクトロ・ビートが映える「Funeral Morality」以外では使われていない。また、音の抜き差しで踊らせる手腕も素晴らしく、空間を活用したプロダクションも秀逸。この点も前作にはなかった部分だ。


 特筆したい曲は、巨大な金属がぶつかりあったような音を響かせる「Tripartite Pact」や、ざらついた質感のビートが際立つ「Spur」。特に、ヴィンス・クラーク在籍時のデペッシュ・モードに通じるシンセ・フレーズが飛びだす「Spur」は、EBMに対する愛情が素直に表現されていて、微笑ましい気持ちになってしまう。また、クラップとリムショットを多用したリズムが印象的な「L'Homme Mort」のように、シカゴ・ハウスのビート感覚を打ちだした曲が多いのも本作の特徴だ。シカゴ・ハウスの要素を効果的に用いることで、本作は〝EBMの焼きなおし〟という不名誉から見事に抜けだしている。


 このように、さまざまな要素が細切れにされて交わる本作の内容は、雑多性が前提となった2010年代のポップ・ミュージックそのものだが、ヘレナはそこに、歴史的文脈への配慮というエッセンスを注ぎこむ。長年ポップ・ミュージックと付きあってきた者ならば、本作に過去の音楽へ向けられた敬意を見いだせるはずだ。サイボトロン、リエゾン・ダンジェルーズ、初期のデペッシュ・モードなどに向けられた敬意を。




(近藤真弥)

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