CHVRCHES『Every Open Eye』(Virgin EMI / Hostess)

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 〝スコットランド〟と聞いて思い浮かべるもの。ハドソン・モホーク、ベル・アンド・セバスチャン、エドウィン・コリンズ、セルティック、スコッチ。ロバート・バーンズも忘れてはいけない。彼をモチーフにしたカクテルは筆者の大好物だ(そのカクテルの名はズバリ、〝ロバート・バーンズ〟)


 しかし、筆者が真っ先に思い浮かべるのは、アニー・レノックスという女性である。デイヴ・スチュワートと結成したユニット、ユーリズミックスで一世を風靡し、現在はソロで活躍するシンガー・ソングライターだ。アニーは音楽活動の一方で、オックスファムの親善大使を務めるなど、社会活動にも長年取りくみ、積極的に発言をしてきた。そのなかでも、筆者がとりわけ秀逸だと思うのは、国際女性デー100周年を迎えるにあたって発表したステートメントだ(※1)。書きだしは、次のような一節。


 「私は、驚き、失望し、怒りを覚える。人類が月に行き、この星に住む誰とも瞬時にインターネットでつながる時代になっても、男女間の平等が実現していないという事実に。」


 この一節は見ての通り、怒りを表明している。だが、読みすすめていくと、希望にあふれる力強い言葉が多くなっていくのが、このステートメントの素晴らしいところ。特に、以下の言葉は多くの人に響くはずだ。


 「あなたが女性であっても男性であっても、この問題と無関係ではない。しかしだからこそ、あなたは解決を生みだす力にもなれる。」


 アニーと同じスコットランド出身で、チャーチズのヴォーカルを務めるローレン・メイベリーは、英ガーディアン紙に『私はネット上での女性蔑視を受け入れません』と題された文章を寄稿している(※2)。おそらく、このようなローレンの側面を知らない人も少なくないだろう。だがローレンは、スコットランドを拠点とし、イヴェント、パーティー、Zine(ジン)の発行などをおこなうフェミニスト集団、TYCIの創立に関わったりと、音楽以外の活動も積極的におこなっている。これらの活動は言うなれば、切実な叫びを〝些事〟だと恣意的に決めつけられ、抑圧されることに対する抵抗だ。ちなみに、TYCIのZineには、創刊号から現在まで〝Edited〟にローレンの名がクレジットされている。ローレンの言葉には、どこかジャーナリスティックな匂いがすると常々思っていたが、こうした活動の影響も少なからずあるのだろう(ちなみにローレンは法律/ジャーナリズムの修士号を持っている)。それにしても、同じところから同じ問題意識を持ったポップ・スターが輩出されるというのも、偶然にしては出来すぎている...。


 さて、そんなローレンの活動は、チャーチズの歌詞にも反映されている。チャーチズの歌詞は、人生にまつわる見逃されがちな機微を丁寧に掬いとり、それを親しみやすい極上のホップ・ソングに昇華したものだからだ。さらに、〝これはこうだ!〟と安易に断言するのではなく、〝これはこうなのかもしれない〟という問いかけに近いニュアンスを持つ言葉が多いのも、チャーチズの歌詞の特徴。これはおそらく、チャーチズにとって聴き手は、信頼すべき存在だからこそできる芸当なのだろう。こうした姿勢から生みだされた歌詞は、知的な興奮を聴き手にもたらし、過度な感情表現に頼らずとも、理性と誠実さで他者を魅了できることを教えてくれる。これを見事に実現しているのが、チャーチズの素晴らしいところだ。


 サウンドの変化にも言及しておきたい。ローレン、それからイアン・クック、マーティン・ドハーティのメンバー全員が80年代エレ・ポップを好むだけあって、本作にもその要素は多分に含まれている。とはいえ、前作『The Bones Of What You Believe』はヒップホップやR&Bの影響が顕著だったのに対し、本作はテクノやハウスの要素が色濃く表れている。たとえば、トランシーで煌びやかなシンセ・ワークを基調に、巧みな音の抜き差しで起伏を作りあげていくさまは、オービタルを想起させる。たくさんのヴィンテージ・シンセを使用していることも、この想起を助長する。また、音に注意深く耳を傾けると、ひとつひとつの音が丹念に磨きぬかれているのもわかるはずだ。もともと、プロダクション技術は優れているチャーチズだが、本作では〝深化〟したサウンドを堪能できる。大きな変化はないが、ヴォーカルや音がよりクリアになり、清涼感あるローレンの歌声が今まで以上に映えている。このあたりは、主に音フェチの方々が興奮するポイントだろう。


 最後に、本作のジャケットについても一言。だいぶ前にツイッターでも言ったが、どことなく、ニュー・オーダー『Power, Corruption & Lies』(1983)のジャケットを連想させるのが面白い。というのも、このタイトル、日本語ではこう訳せるからだ。


 「権力、腐敗、そして嘘」


 もしかすると本作のジャケットは、〝ブロークン・ブリテン〟と言われて久しいイギリスの惨状に対する当てつけではないか(スコットランドはイギリスの構成国)。いや、もっと言えば、これはイギリスだけに向けたものではないかもしれない。権力の腐敗や嘘は、世界中の至るところにあるのだから。チャーチズは、世界中の人たちにコミュニケートしている。チャーチズにとって聴き手は、従わせるものではなく、共に手を繋いで歩んでいく存在なのだ。




(近藤真弥)




※1 : 原文はこちらです。https://www.oxfam.org.au/media/2011/03/annie-lennox-opinion-piece-for-international-womens-day-2011/



※2 : Hostessの公式サイトに日本語訳もあります。http://digitalconvenience.net/?p=4607

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