ALBERT HAMMOND JR.『Momentary Masters』(Vagrant / Magniph)

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 ザ・ストロークスのサウンドにおいて重要な位置を占めるギタリストの、なんと7年ぶりとなるサード・ソロ・アルバム。昨年リリースされたリード・シンガー、ジュリアン・カサブランカスのセカンド・ソロと、見事に好対照をなしている。表裏一体というか、やっぱどちらも同じバンドの一部なんだと思わせてくれる。もちろん、いい意味で。


 まずはオープニング・ナンバーのタイトルに驚いた。なにせ「Born Slippy」。ある程度以上の年齢で特定の趣味を持った音楽ファンであれば、アンダーワールドというユニットのヒット曲を思いださざるをえない。映画『トレインスポッティング』にも使われた、おそらく彼らのレパートリーで最も有名な曲のひとつだ。


 カヴァーかも? あれをどんなふうに処理してるのか?と思ったが、違った(笑)。オリジナル曲だった。ただし、その「釣り」の持つ意味みたいなものがアルバムを聴きすすめるにしたがって、なんとなく伝わってきた。つまり、全体的に彼らのルーツでもある音楽との共通項を感じさせるのだ。エレクトロニックなダンス・ミュージック・ユニットというイメージの強いアンダーワールドだが、80年代には「ちょっと電気入った」感じのロック・バンドだった。ひらたくいって、このアルバム、ジュリアンの過去2枚のソロ・アルバムそしてザ・ストロークスの(今のところ)最新アルバムなみに、いわゆるニュー・ウェイヴっぽい。


 昨年のジュリアン・カサブランカス+ザ・ヴォイズ『Tyranny』がオルタナティヴもしくはポスト・パンクもしくはノー・ウェイヴ色が濃かったのに比べ、アルバート・ハモンド・ジュニア『Momentary Masters』は(そういった香りを漂わせつつ)もっとポップ。だから、もしなんらかの音楽用語でこれを表現するのなら、やはりニュー・ウェイヴというのが最も近いのかも。


 そんなふうに感じつつ、実に気持ちよく聴いていたところ、全10曲中6曲、アナログ盤であればちょうどB面トップで、ぶったまげた。80年代初頭のチェリー・レッド・レコーズにも通じるアコースティック/エレクトロニック・サウンドにのせて歌われるのは...思わず曲名を再確認してしまった。たしかにそうだ。初期ボブ・ディランの「くよくよするなよ(Don't Think Twice, It's Alright)」ではないか...。たぶん、こういった驚きを聴き手にもたらしたいのだろう。ディスク・ケース裏にはわざわざ短く「Don't Think Twice」と表記されている(ネタバレ、すみません...)。


 60年代前半のディランといえば、プロテスト・フォークの旗手という印象がいまだに強いかもしれない。それは、もちろん「間違い」ではない。ただし、ひとつはっきり言っておけば、彼は「普段の生活のなかで感受性鋭くキャッチしたセンスを、適確すぎてびびるほどの言葉で歌っていた」。それだけのこと。この曲は、まさにその(いわゆるプロテスト・フォークではないという意味の)好例。極めてリアルな失恋歌だ。この歌の主人公は、ある意味未練たらたらな状態で、それでも恋人に別れを告げねばならない自分に向けて<くよくよするなよ/これでいい>と歌っている。


 それはそれで、なんとも身を切られるような世界。ただし、ある種のクールさが漂っている。昔からいろんなひとたちに歌われてきた曲だが、ちょっと意外なところでは高橋幸宏もカヴァーしてた。うん、そうだね、だからそう言うわけではないけれど、このアルバム全体に漂う「ちょっと変わった、かなり独自のニュー・ウェイヴ感」は、なんとなく「80年代の幸宏」っぽい? いや、そうでもない? それよりさらにキャッチーなガレージ/パーソナル・コンピューター感がある。だから、やはりもっと「今」の音楽。


 そして、ここで彼がディランをカヴァーしたことに関してもうひとつ感慨深いのが、やはり父親アルバート・ハモンドという存在に対するバランス感覚みたいなもの。ジブラルタル出身の両親のもと、ロンドンで生まれた父は若いころから音楽活動をつづけていたが、70年代にアメリカに移住してから、シンガーそしてソングライターとして破格の成功を収めた。自ら歌った「カリフォルニアの青い空」にしても、カーペンターズに提供した「青春の輝き」にしても、どちらかといえばプロのポップ職人というイメージ。実際それらは、日本の歌謡曲~Jポップの世界でも重宝される形で当時からわが国でも広く受けいれられてきた(だから、ここでもイレギュラー的に邦題で表記してみた。この原稿のために今回あらためて調べてわかったのだが、70年代後半に日本でもヒットしたレオ・セイヤーの曲も書いてたんだ...。80年代には結構ビッグ・イン・ジャパンっぽい「おとなのポップ・ソングライター」的な側面もあった。なるほど、だから自分もとりわけ記憶に残っているのかな)。


 上記のような父親を持つ彼。これも今回初めて知ったのだが、なんと彼の父は2000年に大英帝国勲章までもらっているらしい。音楽業界に対する貢献により、ってことだろう。とすれば、彼としては微妙な気分だったかもしれない。なぜなら、ザ・ストロークスがラフ・トレードからのシングル「The Modern Age」でようやくレコード・デビューを飾ったのは2001年1月のことだったから。


 そんな親の影から(べつに、そのひとに対する個人的愛情を否定するわけではなく)脱すること。セカンド・アルバムという超初期、まるで青さのかたまりのような時期のディランの、それも(00年代に出た)最新ベスト・アルバムには入っていない(だけど、ディラン・ファンなら、ほとんどのひとが愛している)曲をやる。これ以上見事な「オルタナティヴ行為」があるだろうか? そして、あらためて冒頭のオリジナル曲のタイトルに感動する(「おれは生まれながらのできそこない」みたいな。そんな感覚は「くよくよするなよ」にも、もちろん入ってるわけで...)。


 とまあ、その2曲に関する話が多くなってしまい申し訳ないのだが、アルバム全体の内容も、素晴らしいですよ。ファースト・ソロ、セカンド・ソロ以上に見事な「現在の世界のスケッチ」になっていると思います。



(伊藤英嗣)

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