YKIKI BEAT『When The World Is Wide』(P-VINE)

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 2010年代に入って、自身のルーツに意識的だったり、あるいはルーツを示すことに躊躇しない音楽が増えてきた。たとえばスカイ・フェレイラの『Night Time, My Time』(2013)は、彼女が好んで聴いてきたプライマル・スクリームやジーザス・アンド・メリーチェイン、さらにはクラウトロックの要素が明確に表れたポップ・アルバムであり、ホット・チップの最新作『Why Make Sense ?』(2015)は、R&B、ファンク、ハウスといったジャンルへ向けた敬意を折衷的な音楽という形で表現している。いま挙げたふたつのアルバムは、過去の音楽を引用しつつも焼きなおしに留まっていない秀逸な作品であり、〝新しさ〟を強迫的に追求しないことで新鮮さを獲得している。その新鮮さは、〝好きなものは好き〟という姿勢にも見えるが、このような姿勢によってもたらされる軽やかさが、2010年代のポップ・ミュージックにおいてはデフォルトなのかもしれない。


 そう考えると、Ykiki Beat(ワイキキ・ビート)のデビュー・アルバム『When The World Is Wide』は、2010年代のポップ・ミュージックそのものである。彼らの音楽には、実にさまざまな要素が表れている。本作は、ザ・ストロークスやフォスター・ザ・ピープルといった、2000年代以降のバンドに通じるメロディー・センスが随所で見られるが、リヴァーブが深くかかったドラムとノイジーなギターによる甘いメロディーが印象的な「Vogues Of Vision」は、ジーザス・アンド・メリーチェイン「Just Like Honey」を想起させるなど、バントにとってのルーツと思われる要素が垣間見れるのも興味深い。また、ダンサブルなディスコ・ビートにラップが乗る「Never Let You Go」は、彼らが持つ引きだしの多さを象徴する曲だと思う。


 そして、ひとつひとつの言葉をハキハキと発するNobuki Akiyama(ヴォーカル/ギター)の歌唱法は、イギリスのポップ・ミュージック史を飾るヴォーカリストたちを思いださせる。具体的には、ブラーのデーモン・アルバーン、フランツ・フェルディナンドのアレックス・カプラノス、カイザー・チーフスのリッキー・ウィルソンなどなど。これらのヴォーカリストたちの歌い方を、筆者は〝唾吐き系〟と勝手に呼んでいるのだが、Nobuki Akiyamaの歌い方もまさしく唾吐き系。特に、「Never Let You Go」の〈オオオオッオッオウ〉と歌うところなんて、〝イギリスのロックじゃん!〟と言いたくなってしまう。


 こうして、それぞれの曲を細かく聴いていくと、音楽に詳しければ詳しいほどあれやこれやとたくさんのバンドを思い浮かべてしまうのだが、本作がすごいのは、そこまで音楽に詳しくない人でも楽しめる親しみやすさがあるということ。それを可能にするソングライティング能力の高さも、今年アルバム・デビューを果たしたバンドたちのなかでは群を抜いていると思う。奥深さと幅広さを兼ね備えた素晴らしいバンドがまたひとつ現れたことに、盛大な拍手を。



(近藤真弥)

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