SLEAFORD MODS『Key Markets』(Harbinger Sound / Disk Union)

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 最近、イギリスのロックをいろいろ聴いていると、政治/社会問題に言及した曲(あるいはそうしたニュアンスを含んだ曲)を見かけなくなったなと思う。もちろん、マニック・ストリート・プリーチャーズは健在だ。プライマル・スクリームのボビー・ギレスピーも、イギリス保守党政権による労働組合取り締まり政策案に、「これはもう階級戦争としか言いようがない。もし、この法案が成立すれば、労働者たちによるストライキは実質不可能になるだろう」(※1)と怒りの声をあげ、そうした姿勢を作品に反映させることも多い。だが、いま挙げた者たちは、すべて40~50代だ。それより下になると、曲のなかで政治/社会問題に言及することが極端に少なくなる。もはやイギリスのロックに、強烈な反骨精神を求めるのは難しいのかもしれない。


 とはいえ、〝イギリスのポップ・ミュージック〟にまで範囲を広げれば、強烈な反骨精神はいくつもある。たとえば、共産主義者として知られる作家グレアム・グリーンの小説と同名のパーク『The Power And The Glory』(2014)には、英首相デーヴィッド・キャメロンと英財務大臣ジョージ・オズボーン(現在は筆頭国務大臣も兼務)を指した「David & George」という曲があるし、ケイト・テンペスト『Everybody Down』(2014)は、高騰する都市部での生活費に苦しみながら、それでも何とか生きる若者たちの殺伐とした心情を鮮やかに描いてみせた。さらにはジャム・シティーも、最新作『Dream A Garden』(2015)で、〝ブロークン・ブリテン〟と言われるイギリスの現況を悲観的に表現した。


 そうしたなかでも、ジェイソン・ウィリアムソンとアンドリュー・ファーンによるスリーフォード・モッズは、とりわけストレートに怒りを表明していると思う。〝Fuck〟などの卑語は当たりまえ。英語が堪能な者であれば、思わず顔をしかめたくなるかもしれない。ふたりとも現在40代半ばで、音楽活動歴もそれなりに長いのだが、大きな注目を集めたのはここ2~3年のこと。サウンドは、ひたすら同じパターンを刻むビートに、ひたすら同じリフを奏でるベースという、極めてシンプルなものである。そこにジェイソンの暑苦しいラップを乗せることで、スリーフォード・モッズ・サウンドの出来上がり。一言で表せば、ヒップホップとポスト・パンクを掛けあわせたミニマルなサウンドスケープとなるのだろうが、正直、サウンド面に革新性はないし、卓越したプロダクション技術が見られるわけでもない。ざらついた質感の音粒は筆者の好みだし、反復による高い中毒性も面白いとは思うが。


 では、スリーフォード・モッズの魅力とはなにか? ずばり言葉だ。本作『Key Markets』では、エド・ミリバンド元労働党党首や、ニック・クレイグ元自由民主党党首を血祭りにあげている。しかし、それが無慈悲に聞こえないのは、言葉に込められた怒りの矛先が、常に強者、もっと正確に言えば、多くの犠牲と抑圧を強いたうえで調和を保とうとする権力に向けられているからだ。どんなに言葉が汚く、どんなに攻撃的で過激だったとしても、スリーフォード・モッズは弱者やマイノリティーに刃を向けたりはしない。そこがスリーフォード・モッズの上手いところであり、大きな注目を集めることができた理由のひとつでもある。強者側(権力)からすれば、本作は耳が痛くなる言葉で埋めつくされた作品に聞こえるだろう。だが、そんな強者側に抑圧され犠牲を強いられた者たちからすれば、明日を生きるための糧になるような笑えるユーモアと、弱者やマイノリティーをしっかり捉える眼差しという優しさが込められた音楽に聞こえるはずだ。もちろんそこに、怒りもあるのは言うまでもない。こうした、ギリギリの状況でもユーモアと優しさを保てるタフネスは、ゲイ・ライツのアクティヴィストとしても有名な俳優イアン・マッケランが、コメディー番組(※2)で過激なゲイネタを浴びても成立するイギリスならではと言えるかもしれない。


 そして筆者は、このような表現を可能にするセンスこそ、多くの人が持つべき強さだと思う。言うなれば、イメージが武器となるメディアという戦場において、世界中の人々を笑わせたチャップリンがなぜヒトラーに打ち勝つことができたのか? ということ。ユーモアと優しさを失った強さは、単なる弱さでしかないのだ。


(近藤真弥)



※1 : NME JAPANの記事『プライマル・スクリームのボビー・ギレスピー、デモを犯罪化するイギリスの法案に激怒』より引用。



※2 : 英BBC『Extras』のこと。イアン・マッケランはシーズン2の第5話にゲスト出演。

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