THE ‎CHEMICAL BROTHERS『Born In The Echoes』(Virgin EMI / Universal Music)

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 トム・ローランズとエド・シモンズによるケミカル・ブラザーズは、アシッド・ハウス、テクノ、ヒップホップ、サイケデリック・ロックなどの要素が入りまじった革新的サウンドを携え、90年代のイギリス音楽シーンに颯爽と現れた。その90年代にふたりがリリースした3枚のアルバム、『Exit Planet Dust』(1995)、『Dig Your Own Hole』(1997)、『Surrender』(1999)は、ポップ・ミュージックの進化と拡張を促した。そして、この3作品の頃が、ふたりの全盛期だったと思う。


 では、2000年代のふたりはどうだったのか? 筆者からすると、どうもピリッとしない退屈なアルバムを量産していた時期ということになってしまう。「Star Guitar」(2002)や「Galvanize」(2005)など、曲単位では秀逸な作品を残し、ライヴ・パフォーマンスも相変わらず壮大で素晴らしいものだったが、アルバムとなると、どこか迷走気味でスリルに欠けていた。もちろんこれは、90年代にふたりが鳴らした折衷的サウンドとそれを可能にしたセンスが、多くの人にとって馴染み深いものになってしまったことも一要因としてあるだろう。いわば2000年代のふたりは、〝過去の自分たち〟という壁を前にもがいていた。


 そして、2010年代。ふたりは『Further』(2010)というアルバムを発表した。この作品で最初に目を引いたのは、それまでの恒例であった大物ゲスト・ヴォーカルがいないこと。時代の潮流には目もくれず、ディープでアグレッシヴなテクノ・サウンドが展開されていることも驚きだった。さらには清々しい解放感も漂わせるなど、声を大にして〝快作!〟と叫びたくなる内容で、筆者も久々にふたりのサウンドを聴いて興奮した。『Further』以降のふたりは、映画『Hanna』(2011)のスコアを手掛け、トムはエロール・アルカン主宰のPhantasy Sound(ファンタシー・サウンド)からシングル「Through Me」(2013)を発表したりと(このシングル本当に最高だから聴いてほしい!)、面白い活動をいくつもおこなっている。


 そうした活動を経て作られた最新アルバム、それが本作『Born In The Echoes』だ。まず興味深いのは、Qティップ、アリ・ラヴ、セイント・ヴィンセント、ケイト・ル・ボン、ベックといったゲスト・ヴォーカル陣だが、正直、彼ら彼女らが参加した曲はどうでもいい。そのほとんどが毒にも薬にもならない〝まあまあレヴェル〟のポップ・ソングであり、そのなかでもシンプルな4つ打ちに合わせてベックがアンニュイな歌声を披露する「Wide Open」は、本作のシャープでストイックな雰囲気に水を差している。シングルとしての発表ならアリだと思うが、そもそも曲自体が安直で聴きとおすのも困難な出来。シングル・リリースされたところで、筆者の口からは辛辣な言葉しか出てこないだろう。


 だが、そうした欠点以上に際立つ魅力があるのも確かで、たとえば6曲目の「Just Bang」。ヴォイス・サンプルとラフな質感のビートが際立つミニマルな音像を特徴としており、さらにTB-303風のアシッディーな音が飛びだしてくることも手伝って、『Exit Planet Dust』期のサウンド・プロダクションを彷彿させるのだ。もちろん、そのプロダクションをまんま再現しているわけではなく、これまでの長い活動で培ってきたスキルが上乗せされている。それは、自ら『Exit Planet Dust』期の音を更新した曲、あるいは風変わりなセルフ・カヴァーとも言いたくなる内容。『Exit Planet Dust』自体は、いま聴くと少々古臭さが否めないアルバムだ。しかし、そのような作品に通じるサウンドを本作で鳴らしたのは、『Further』を作りあげたことで、〝好きな音を素直に鳴らせばいい〟という自信がふたりのなかに芽生えたからではないか? 本音を言えば、その自信をもっと前面に出してもよかったと思うが、そんな自信の一端に触れるために本作を聴くというのも一興だ。ただ、そうした自信の一端を垣間見せるのが、「I'll See You There」「Just Bang」「Reflextion」など、すべてインストの曲というのも複雑な気分だが...。


 それでも、『Further』から地続きの解放感とアグレッシヴさが健在なのは嬉しいかぎりで、『Further』とそれ以前のサウンドを接合しようと試みた意欲にも惹かれてしまう。とはいえ、本作が〝ただの秀作〟となるのか、それとも〝偉大なる失敗作〟となるのかは、ふたりの〝次〟にかかっている。



(近藤真弥)

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