レミ街『フ ェ ネ ス テ ィ カ』(Thanks Giving)

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 思春期の少年と妙齢の女性が同居する深谷彩の歌唱を軸に、ギター、ベース、ドラム、キーボードの基本編成にくわえ、サックス、フルート、フィドル、チェロなどのやわらかな響きが要所を彩る。名古屋のチェンバー・ポップ・ユニット、レミ街が奏でるのは、世界各地のフォーク・ミュージックや祭囃子といった素材を、『宇宙 日本 世田谷』期のフィッシュマンズに通じるダブや、フライング・ロータスなどのビート・ミュージックの感覚で再構成したような音楽だ。


 レミ街のコンポーザー/キーボード奏者である荒木正比呂の原点は、幼い頃、兄にもらったカセット・テープに録音されていた『風の谷のナウシカ サウンドトラック はるかな地へ・・・』とその関連作だというが、久石譲がミニマルな現代音楽を志向していたように、レミ街の新作も最小限の打ち込みから出発してダンサブルな生演奏をくわえていく過程を経ているようだ。


 そして、これは一笑にふされるかもしれないが、本作を聴いて私の脳裏によぎったのは、各地の伝統音楽を保存するノアの方舟、その船上から世界の有り様について演奏するイメージだった。たとえば、アルバムのラストを飾る、「よろこびの歌」と題されたバラードの〈白い君の心が浸水しそうなほどに〉という歌詞は大洪水後の世界を想起させるし、7曲目の「Country Calling」という、草原を旅するジプシーの様子が目に浮かぶアイリッシュ・トラッド風ナンバーが、水泡とともに届くようなダビーな音響で海の中をイメージさせる別ヴァージョン「Country Calling Recalling」として13曲目で再演されることも、その思いを強めてしまう。聴く者によっては、この世界の現状、そのなかで生きる我々ひとりひとりの罪を暴かれるような気持ちになるかもしれない。


 その一方で、鳥の鳴き声のようなサンプリングにストリングスの響きが重なり、涼しげな森の中にたたずんでいるような気持ちにさせる「Safety touch」など、聴く者を優しく包み込むような曲も配置されている。そして、リード・チューンである1曲目「CATCH」では、シンプルなギター・リフが輪廻のように繰りかえすなか、松本隆作詞の『風の谷のナウシカ』テーマ・ソングと同じ〈やさしくつかまえて〉という一節が歌われ、一瞬のブレイクが訪れる。レミ街は、無駄な関わりをオミットしたうえで残った大切なナニカを表現している。



森豊和)

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