NATE RUESS『Grand Romantic』(Fueled By Ramen / Warner)

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 ご存知、Fun.(※クッキーシーンの表記ルールに従い以下、ファン。の表記で統一させていただきます:笑)のヴォーカリスト、ネイト・ルイスのソロ・アルバムがついに登場! まず、このタイトル『Grand Romantic』にグッときた。〝Grand〟という言葉が持つ響きと意味が良い。「そびえ立つ」とか「壮大な」って感じ。そして、そんな形容詞を受けとめるのが〝Romantic〟。つまり、「壮大なロマンティスト」ってこと。かつてのザ・フォーマットからファン。での世界的な大成功まで、活動のスケールと知名度がどんなに大きくなっても、芯の部分では変わらない彼の音楽性にはぴったりだと思う。とびきりポップだけど、胸が締めつけられるような切なさも残す歌の世界。そんなイメージは、色とりどりの薔薇や風船、不気味なマスク、骸骨に囲まれて物憂げな横顔を見せるジャケットにも見事に表現されている。


 世界を見渡してみても、日本の空気を肌で感じ取ってみても、〝ロマンティック〟とはほど遠い。過去への憧憬だとか、未来への展望だとか...。その両方を明るく語れる人を僕は知らない。皮肉でも何でもなく、それが「今、ここ」だ。


 そんな「今、ここ」にありながら、初めてのソロ・アルバムに『Grand Romantic』と名付けることは、ネイト・ルイスの固い決意表明のようだ。現実逃避の絵空事ではなく、大きさや重さ、手触りがしっかりと実感できるほどの〝ロマンティック〟。その想像力とその先にあるものこそが、今いちばん必要なのだということ。


 活動中のバンドのメンバーがソロ作品をリリースする場合、バンドでの音楽性とは一線を画した表現を追求することが多い。ミニマル・テクノをベースにDJ的な視点/手法を取り入れるトム・ヨーク(アトムス・フォー・ピース)とか、ストロークスよりも生々しくダーティーなジュリアン・カサブランカス(+ザ・ヴォイズ)とか。そして、ファン。からもギタリストのジャック・アントノフが一足先にソロ活動をスタートさせている。パワー・ポップなバンドっぽさを感じさせるブリーチャーズ(祝!サマソニ出演)名義での活動からテイラー・スイフト(!)の楽曲プロデュースまで、かなり順調な様子。僕たちにとっては、バンドとの距離感から生まれる意外性も楽しみのひとつだ。


 けれども、ネイト・ルイスの場合はそれほどファン。とはかけ離れていない気がする。一度聴いたらすぐに歌えそうなメロディ、「これは絶対にライヴで盛り上がるね!」と胸が高まるドラマティックな展開、そして何よりも、ありったけの力を込めたあの大きな歌声。でも、それが不満かと言えば、まったくそうじゃないのがこのアルバムの素敵なところ。ファン。の延長線上にありながら、よりソングライティングの質を極めてゆく感じ。むしろ、ファン。で到達したコマーシャリズムをも真っ向から受け止めようとしている姿勢が清々しい。実験的/冒険的の名を借りたマニアックさなんて、やっぱり〝ロマンティック〟じゃないのだ。タイトル・ソング「Grand Romantic」を聖歌隊のコーラス風にアレンジした静謐なイントロに導かれて、アルバムは幕を開ける。


〈Step Right Up For The Grand Romantic / Always Tragic Broken Bones〉


 どうやらこの壮大なロマンティストは、悲劇的に傷ついているらしい。誰かに助けを求めるほどに。そんな厳かな雰囲気も束の間、不意打ちを喰らわすようにいつもどおりのネイトの陽気な歌声が飛びこんでくる。やっぱり(笑)クイーンを思わせるスタジアム級のアンセム、キラキラしたダンス・チューン、ピアノとストリングスが繊細なヴェールを織りなすバラードなど、バンドの課外活動なんかじゃないことが明確な本気の楽曲が連発される。レッチリのジョシュ・クリングホッファー(レッチリ加入前にザ・フォーマットのセカンド&ラスト・アルバム『Dog Problems』(2006)にも参加。ふたりともブレイクしたね!)をはじめ、ウィルコのジェフ・トゥイーディー、ロジャー・ジョセフ・マニング Jr.らがコラボレーションに名を連ねる。そのなかでもやっぱりいちばんワクワクさせられたのは、裏ジャケットに〝FEAT. BECK〟のクレジットを発見したとき。ベックと共作/共演した「What The World Is Coming To」は、間違いなくこのアルバムを特別なものにしている。そして、個人的にはここ数年で耳にしたなかでもトップ・クラスの名曲だと思う。


 ベックといえば、今年2月のグラミーで最優秀アルバム賞を受賞した『Morning Phase』(2014)の陰に隠れてしまった気がするけれど、その少し前にリリースされた『Song Reader』(2012)も素晴らしかった。『Song Reader』自体は、もともと楽譜として発売された変則的なアルバム。それを様々なミュージシャン/バンドがレコーディングして、ようやく「聴くことのできる」アルバムになったもの、という経緯が面倒くさい(笑)。そこに登場するメンツがまた豪華で...って話はさておき、ネイトは『Song Reader』にファン。として参加している。そこに収録されている子守唄のようなワルツ「Plaese Leave A Light On When You Go」を聴いたときには、ベックの曲作りの巧みさとファン。との相性の良さに驚いた。まるでファン。のオリジナルのように聴こえたから。


 そして今度はネイトが恩返しをするように、ベックを招いての共演だ。「What The World Is Coming To」は、何の変哲もないヴァース/ブリッジ/コーラスという構成の曲だけど、そのシンプルさゆえに曲のクオリティーが際立っている。ベックの『Sea Change』(2002)や『Morning Phase』にも通じるアコースティックな響きが心地良い。ソングライティング、そして歌本来の力強さ。それこそネイト・ルイスがこのアルバムに求めていたことなのだろう。そしてもう一度、「Grand Romantic」に耳を傾けてみる。


〈I Don't Wanna Live With The Grand Romantic / Grand Romantic Anymore〉


 あれれ、意外とあっさり〝壮大なロマンティスト〟は否定されている。それがあきらめなのか、厳しい現実への最初の一歩なのかは、このアルバムを聴く人それぞれに委ねられているのだと思う。そしてアルバムはビートルズ/ポール・マッカートニーっぽいメロディーを持つ「Brightside」で静かに幕を閉じる(国内盤はボーナス・トラック1曲追加)。喜びと挫折、出会いと別れに彩られた『Grand Romantic』。ひょっとすると、それは「今、ここ」そのものなのかもしれない。最後には、そう気づかされる感動の1枚。フジロック2日目、ソロでのパフォーマンスにも期待しよう!



(犬飼一郎)

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