M.E.S.H.『Piteous Gate』(PAN)

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 ドイツのダンス・ミュージック・シーンで名が知れた存在といえば、マルセル・デットマンを擁し、ベルリンのテクノ・シーンを牽引するレーベルOstgut-Ton(オストグットトン)、ザ・フィールドギー・ボラットの作品をリリースしているケルンのKompakt(コンパクト)、さらにはエドワードやプリンス・オブ・デンマークといった先鋭的なダンス・ミュージックを取り扱うGiegling(ギーグリング)などだろう。


 しかし、筆者はここにもうひとつくわえたい。それは、メッシュ、ロティック、カブラムの計3人によるJanus(ジャニス)というクルーだ。おそらく知名度でいえば、PAN(パン)やフィンランドのBlack Ocean(ブラック・オーシャン)などからリリースを重ねるメッシュと、Tri-Angle(トライアングル)から傑作EP「Heterocetera」を発表したロティックのふたりに軍配が上がるかもしれない。だがここでは、紅一点のカブラムに字数を割きたい。


 彼女は今のところ、いくつかの曲やDJミックスなどを発表しているにすぎないが、昨年DFA(カセットは1080p)からリリースされた、ダン・ボダンのアルバム『Soft』収録の「Reload」をリミックスしたりと、他のふたりとは少々毛色が違う活動をしている。くわえて、スウェーデンが拠点のStaycore(ステイコア)による、クドゥーロやグライムなどさまざまなビートが集められたコンピ『Summer Jams 2K15』にも参加し、その横断的な活動は3人のなかでも群を抜いている。こうした、老舗レーベルのDFAからStayCoreのような新興レーベルまで行き来できる、Janusの折衷性と寛容さはもっと注目されていい。いまのところ、アンディー・ストット 『Luxury Problems』(2012)以降、着実に発展を続けるインダストリアルとベース・ミュージックの接合という文脈においてメッシュやロティックが注目されている程度だが、そうした流れに組みこまれるだけでは終わらないポテンシャルがJanusにはある。


 さて、Janusについて長々と書いてしまったが、そのJanusに所属するメッシュが初のフル・アルバムを上梓した。『Piteous Gate』というタイトルの本作には、先述したJanusの折衷性と寛容さが反映されていると思う。昨年発表された「Scythians EP」では、ベース・ミュージックの要素が濃い豪快なサウンドで筆者を驚かせてくれたが、本作ではその要素が後退。かわりに、ミュージック・コンクレートの影響が滲みでたコラージュ・サウンドを展開している。それゆえ、反復による高い中毒性や音の強度で圧倒する力強さはほとんどないが、音が鳴っていない無音の空間も活かした、繊細かつ大胆なサウンド・プロダクションは素晴らしいの一言。そうした意味では、ダンスフロアでの即効性よりも、ホーム・リスニングでじっくり味わいながら楽しむ遅効性が特徴の作品と言える。この点も、ダンスフロアだけに留まろうとしない野心、それこそ本稿で繰りかえし述べている折衷性と寛容さそのものだ。


 とはいえ、幅広い層に届く訴求力が薄いのは、本作の秀逸な電子音が持つ欠点だと言わざるをえない。それでも、じわじわと迫るサディスティックな緊張感をまとうサウンドスケープは、必聴レヴェルだ。マスタリング・エンジニアにラシャド・ベッカーを迎えた人選もグッド。



(近藤真弥)

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