DRUID CLOAK『Lore : Book Two』(Apothecary Compositions)

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 よく、〝何でもあり〟という言葉を聞く。音楽レヴューにおいては、いろんなジャンルを取りいれた音楽に使われる言葉だが、実際聴いてみると、言うほど〝何でもあり〟ではないことのほうが多い。確かに今は、あらゆる時代の音楽にアクセスできる。そのなかで、さまざまな音楽を聴いている人も少なくないだろう。


 だが、それを音にして表現するとなれば、そう簡単にはいかない。特に、物語性が求められがちなアルバムというフォーマットでは、〝何でもあり〟というコンセプトのもと好き勝手やっても、散漫で聴くに耐えない作品になってしまうことも多い。だからこそ、こうした散漫さを上手く回避し、ライト・リスナーから玄人まで誰もが楽しめる〝広く深い〟作品は、それだけで興味深いものとなる。最近リリースされた作品のなかでは、シャミール『Ratchet』ハドソン・モホーク『Lantern』などがそれにあたるが、この2作品がすごいのは、〝広く深い〟ことがこれからのポップ・ミュージックにおける前提としてしまいかねないほどの影響力を持っていること。たとえばハドソン・モホークは、ファースト・アルバム『Butter』(2009)でも〝広く深い〟音楽を響かせたが、続く『Lantern』では、その〝広く深い〟音楽を深化という形で、さらに強度を上げることに成功してしまった(アントニー・ヘガティーとミゲルをひとつの作品内で共生させられる者など、他に誰がいるだろう?)。この成功が示すのは、『Butter』が見せてくれた〝広く深い〟ヴィジョンは偶然の産物ではなく、秀逸な感性とそれを表現できるある程度の技術さえあれば、再現可能だということ。


 このような作品が生まれ、また、そんな作品の感性と共鳴する〝広く深い〟作品が他にも多く作られている2015年は、のちに振りかえったときに、ポップ・ミュージックの聴き方がまたひとつ拡張された重要な年として認識されるかもしれない。作り手としては、受け手を満足させるためのハードルが上がるのだから、ますます大変になるだろう。しかし、受け手にとってはますます面白くなるだけ。無責任を承知で言えば、受け手にあたる筆者としては、その高いハードルを作り手がどう乗りこえていくのか楽しみだ。


 と、これまた〝長すぎる!〟と怒られそうな文量を前フリに割いてしまったが、ドルイド・クロークのセカンド・アルバムとなる本作『Lore : Book Two』も、〝広く深い〟作品となっているので、どうしても語っておきたかった。どうかご容赦を。


 ドルイド・クロークは、アメリカを拠点に活動するアーティスト。ライアン・ヘムズワース主宰のSecret Songs(シークレット・ソングス)からリリースしたシングル、「The Battlecry」がキッカケで注目を浴び、レーベルApothecary Compositions(アポセカリー・コンポジションズ)のオーナーとしても、興味深いビートが詰まった作品をいくつも取りあつかっている。


 そんなドルイドの音楽は、ヒップホップとベース・ミュージックを基調としながらも、そこにさまざまな要素を溶けこませている。そうした特徴は本作でも健在だが、ヘヴィーでスロウなグルーヴを強調している点はこれまで見られなかったものだ。さらに、ひとつひとつの音がラフでざらついていることもふまえると、『Luxury Problems』以降のアンディー・ストット、あるいはハビッツ・オブ・ヘイトとしても活躍するハッパなどに通じる、インダストリアル・テクノとベース・ミュージックが溶解したゴシックなサウンドとも言える。


 また、本作にはゲームの影響もうかがえる。それは1曲目「Throne Wars」や3曲目「Obsidia Chroma」で響きわたるシンセなどに見いだせるし、そもそも1曲目の曲名自体、世界的に有名なオンライン・ゲームと同名である。おまけにドルイド・クロークの〝ドルイド〟は、ゲームや映画の題材としてもよく用いられるケルト神話が元ネタ(ちなみにドルイドのツイッターアイコンは、天野喜孝によるファイナルファンタジー3のイラストだ)。このように本作は、音楽以外の文化からも強い影響を受けている。


 こうした音楽以外の要素も目立つ雑多な表現は、良くも悪くも、ポップ・ミュージックがその他多くの娯楽と並列になり、もっと言えばポップ・ミュージックに〝だけ〟強い興味を向ける人が少なくなった現在だからこそ生まれたものだといえる。だが面白いのは、そうした表現がポップ・ミュージックの進化と拡張を促しているということ。そして、この〝ポップ・ミュージックの進化と拡張〟という点において本作は、『Lantern』に匹敵する。幅広い層に届く訴求力では少々劣ってしまうが。



(近藤真弥)

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