DESAPARECIDOS『Payola』(Epitaph)

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 まず初めに、声を上げること。いや、まず目を向けるだけでもいい。7月15日午後8時半すぎ、僕は国会議事堂の周辺にいた。いま、未来のことを考えるのなら、もっと正確に〝2015年〟と付けくわえるべきなのかもしれない。数千人とも数万人ともいわれる群衆の中で時おり声をあげ、原始的なビートに合わせて身体を揺らし、周囲の喧噪とわずかな沈黙に耳を傾けていた。湿気を多く含んだ夜風が本格的な夏の到来を告げている。とても暑く、とても長い夏になりそうだ。


 「なんか、夏祭りみたいだな」とか「いや、夏フェスかな」とか。警察の誘導に惑わされながらも先へ進む。少しだけ違うのは、行きかう人々の多くが、うちわやライヴ会場マップじゃなくてプラカードを手にしていること。若い人、女性の姿がいつもより多いような気がする。〝いつも〟だって。2011年以来、政府に「No」と言う行動が自分にとって〝いつも=Usual〟っていう感覚になってきているなんて、感じ悪いね。


 デサパレシドスが13年ぶりにリリースしたセカンド・アルバム『Payola』を、こんなタイミングで耳にしたことを僕は偶然だとは思えない。


 ブッシュからオバマへと政権が移り変わる時代のなかで、ボブ・ディランと並び称されるほどになったコナー・オバーストは、2011年の『The People's Key』を最後にブライト・アイズとしての活動を休止している。そして、入れ替わるようにデサパレシドスが再始動した。自主制作盤としてリリースされた3枚のシングル、「MariKKKopa / Backsell」(2012)、「Anonymous / The Left Is Right」(2013)、「Te Amo Camila Vallejo / The Underground Man」(2013)はタイトルからも読みとれるとおり、どれも明確な政治的スタンスを持つ。フォーク、カントリー・ミュージックの素朴さと大衆性を受けつぐプロテスト・ソングから、ゲリラ的な即効性と強度を持つパンク・ロックへ。何かに急かされるように。


 「オキュパイ・ウォール・ストリート(ウォール街を占拠せよ)」に象徴される富裕層と中/低所得者層との格差、ハッカー集団「アノニマス」の活動、移民問題、ウィキリークスによるアメリカ外交公電の流出事件、銃犯罪、音楽業界の暗部...など、このアルバムに収録されているすべての曲が、現在のアメリカが抱える社会問題をテーマとしている。しかも、『Payola』というタイトルは、「番組で曲を流してくださいね」と音楽関係者がラジオDJに渡す〝賄賂〟を意味する。検閲済みの文書をモチーフにした硬派なアートワークとは裏腹に、ひねくれたユーモアも忘れてはいない。


 正直に言えば、日本で暮らす僕が「やっぱ、アメリカやばいでしょ」とか語れるほどの理解はない。けれども、そのサウンドに耳を傾けると、やはり心を突き動かされる何かがある。まずは一般認識だけでもいい。想像力は刺激されるはずだから。〝わかる〟ふりをすることよりも、〝感じる〟こと。そうすれば、大人も学校もテレビも新聞も、インターネットでさえも教えてくれなかったことに気づく。それが音楽を、それがパンク・ロックを聴くってことだ。


 ブライト・アイズでは抑え気味になっていたコナー・オバーストのエモーショナルな絶叫が聴こえる。フガジ、ハスカー・ドゥ直系のUSハードコアな乾いたディストーションが炸裂する。その一方で、初期のウィーザーやカーズっぽいチープでポップなシンセがシリアスさを和らげる。プロデュースは、コナー・オバーストの活動を長年支え続けてきたマイク・モギス。全14曲、約40分を一気に聴かせるソリッドでタイトなサウンドが最高にカッコいい。ブライト・アイズ、デサパレシドスの前作をリリースしていた古巣Saddle Creek(サドル・クリーク)を離れ、バッド・レリジョンのブレッド・ガーヴィッツが創設した老舗パンク・レーベルEpitaph(エピタフ)からのリリースというのも本気さが伝わってくる。


 政府に「No」を言うことすら日常的になってきた今、すべての問題を〝わかっているのか?〟 なんて問いなおしている場合じゃない。2015年にデサパレシドスが鳴らすパンク・ロックが気づかせてくれるのは、より早く(速く)、より大きな声で、できるだけ多く、できるだけ遠くにまで、思ったままを伝えることの大切さ。〝怒り〟そのものを表明することよりも、まずは意思を持って行動するということだ。



(犬飼一郎)

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