PAUL WELLER『Saturns Pattern』(Parlophone / Warner)

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 よく考えてみれば、ちっとも不思議なことじゃないのかもしれない。でも、やっぱりこのアルバムに満ちあふれる瑞々しさには驚かされた。ポール・ウェラーの音楽をずっと聴き続けてきた僕にとってはそうだったし、初めて彼のアルバムを手にする若いリスナーにとってもそうであれば良いなと思う。〝モッドファーザー〟ってイメージが「カッコいい!」と思えるのならOKだけど、もしも「古くさい...」って印象で遠ざけてしまうのならもったいない。ちょっと少なめの全9曲(国内盤はボーナス・トラック2曲追加)にギュッと凝縮されたソリッドでカラフルなサウンドは、そんな固定観念を軽やかに飛び越えてゆくはずだから。


 人気絶頂のザ・ジャムをあっさり解散させたあとにスタイル・カウンシルで「My Ever Changing Moods」と歌ってみたり、ブリット・ポップ全盛期にリリースされた3作目のソロ・アルバム『Stanley Road』(1995)では、力みがちに「The Changingman」だと宣言してみたり。思えばポール・ウェラーはいつだって〝Change〟に自覚的だった。それこそが本質的な意味でのモッズ(Moderns=新しもの好き!)たる所以。変わるものと変わらないもの。サウンドにもルックスにも現れるその絶妙なバランス感覚は、昔も今も研ぎ澄まされたままだ。


 前作『Sonik Kicks』でのニュー・ウェイヴ、エレ・ポップからクラウトロックまでもを取り入れたアプローチも新鮮だったけれど、この『Saturns Pattern』はさらにその先を行く感じ。特定の影響源にフォーカスするのではなく、ひとつひとつの曲に多彩なサウンドがスムースに溶け込んでいる。コズミックなガレージ・ロック、サイケデリックなR&B、ソウルフルなグラム・ロックという具合。『Saturns Pattern(土星の縞模様)』だなんて、宇宙まで飛んで行っちゃう感じとか折衷的なセンス、そして臆することなく〝Change〟を続ける姿勢は、どこかデヴィッド・ボウイとも重なり合う。ふたりの音楽的な出自がモッズだってことも感慨深い共通点だ。


 クレジットに目を向けると、2002年の『Illumination』以降(前作も含めて)いくつものアルバムをプロデュースして、近年ではポール・ウェラーの右腕的な存在感を発揮してきたサイモン・ダインの名前がない。それも〝Change〟のひとつ。サイモンに代わってプロデューサーに起用されたのはジャン・スタン・カイバート。彼がポール・ウェラーのアルバムをプロデュースするのは2005年の『As Is Now』以来。とはいえ、その間もミキサーやエンジニアとして深く関わってきた人物だ。エレクトリック・ギターを中心に据えながらも浮遊感のあるキーボード・サウンドと骨太なグルーヴで緻密なレイヤーを描くアレンジは、ニュー・オーダー『Get Ready』(2001)やオアシス『Don't Believe The Truth』(2005)など、90年代からエンジニア/プロデューサーとして様々なアルバム制作に携わってきた彼が大きく貢献しているのだろう。


 Playボタンを押すといきなり、時空歪み系のシンセとそれを引き裂く爆音ギターが耳に飛び込んでくる。この「White Sky」のループを手がけたのは、ノエル・ギャラガーのセカンド・アルバム『Chasing Yesterday』にも参加しているアモルファス・アンドロジナス。そして、デヴィッド・ボウイの「Suffragette City」みたいなテンション高めのロックンロール「Long Time」でギターを弾きまくっているのはザ・ストライプスのジョシュ・マクローリーだ。10代でシーンに登場したポール・ウェラーは、かつての自分と同じ年頃のジョシュに何を叩き込んだのかな? とかね。一方ではザ・ジャムが4人組(!)だった頃のギタリスト、スティーヴ・ブルックスが「In The Car...」と「These City Streets」に参加。もちろん、オーシャン・カラー・シーンのスティーヴ・クラドックも(今回は3曲だけだけれど)ツボを押さえたプレイでバックを支えている。


 そして、ポール・ウェラーはタイトル・ソング「Saturns Pattern」でやっぱり〝Change〟だと、「すべてを変えてしまえ」と歌う。


〈Change It All / It's Saturn's Turn / Cut It Clean / The Pattern's Good〉


 過去と現在と未来が交差する座標に『Saturns Pattern』は、鮮やかに浮かび上がる。それはまるで、クラブの薄暗がりの中で視界を眩ませるミラー・ボールのようだ。この〝土星〟は、僕たちの頭上で音楽を乱反射させる。フロアで鳴り続けてきた音楽への敬意も忘れてはいない。このアルバムは昨年他界したふたりのミュージシャン、イアン・マクレガン(元スモール・フェイセス)とフランキー・ナックルズに捧げられている。



(犬飼一郎)

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