HOLLY HERNDON『Platform』(4AD)

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 スティーヴン・レヴィーによる著書『ハッカーズ』には、ハッカー倫理7ヶ条なるものが登場する。その7ヶ条のなかでも、とりわけ興味深いのは次の3つ。


3.すべての情報はフリーになるべきだ。

4.権威を信じるな 非中央集権を進めよう。

7.コンピュータはわれわれの生活をよいほうに変えられる。


 1987年に発表された『ハッカーズ』は、権威を振りかざす官僚主義に立ち向かうコンピュータ・オタクたちの姿に迫った名著。おそらく、インターネットに少しでも興味がある者なら、1度は読んだことあるはず。


 とはいえ、『ハッカーズ』の登場人物たちが見せてくれるピュアな理想は、今のところ実現しているとは言いがたい。日本だけを見ても、恣意的な解釈による稚拙な言説があふれるばかりで、一考に値する真摯な言葉が情報の海に埋もれてしまいがちだ。こうした状況においては、インターネットの可能性を無条件で賛美することに抵抗したくなる者が現れても(というか、すでにいるのだろうけども)、おかしくないと思う。


 しかし、4ADからサード・アルバムとなる本作『Platform』を発表したホリー・ハーンドンは、インターネットの可能性を信じているようだ。かつて彼女は、次のような言葉を残している。


 「インターネットの良いところは、ユニークで新しいものや自然とか人間とかいろんな画像を階級なく見られるところ。でも最近アメリカでは、インターネットの格差ができているの。(中略)平等さを守るためには戦いたいと思っているわ」(※1)


 本作でもその戦いはしっかり受け継がれているようで、たとえば「Home」という曲は、盗聴などでたびたび問題を起こしているNSA(アメリカ国家安全保障局)の怖さについて言及してるという。だとすれば、ニコニコ動画でよく見るコメントの嵐(いわゆる〝弾幕〟のこと)を想起させる映像効果のなかで、淡々と語りかける彼女の姿が印象的な「Home」のMVは、小さいながらも重要な個人の声が届きづらい現在を表象しているとも言える。こうした思索を促すコンセプトが、本作にはある。


 とはいえ、こうした興味深いコンセプトを支えるサウンドは、お世辞にも秀逸とは言いがたい。ヴォイス・サンプルを上手く活用した「Interference」や「Chorus」など、高い中毒性を生みだす反復が際立つ佳曲もあるが、中途半端な歌モノに仕上がっている「Morning Sun」は、アルバムとしてのスムースな流れを作るうえでは邪魔になっている。このような欠点は、明確なコンセプトがある本作の作風を考えれば、極めて致命的だと言わざるをえない。4ADからのリリースということで、彼女なりに万人さを求めたのかもしれないが、万人さと先鋭さのバランスでいったら、前作のほうが数段上である。言ってしまえば本作は、バランスを取りながら必死に綱渡りしてみたものの、その取り方が上手くいかないまま落下してしまったというアルバムだ。彼女の魅力のひとつである、初期のデトロイト・テクノを連想させる未来志向な姿勢と、その姿勢を明確に反映したサウンドスケープも影を潜めているFade To Mind(フェイド・トゥー・マインド)やNight Slugs(ナイト・スラッグス)周辺に通じるマシーナリーなビートが映えるDAO」は、興味深いグルーヴを生みだしているとは思うが...。


 もちろん彼女が、将来的に適切なバランス感覚を得る才能に恵まれているのは確かだ。しかしそれは、〝本作の内容〟とはまったく別の話。



(近藤真弥)






※1 : CBCNET掲載のインタヴューより引用。



【編集部注】『Platform』の日本盤は6月24日にHostessから発売予定です。

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