WIRE『Wire』(Pink Flag / P-Vine)

 ワイアーというのは、実に奇妙な...とらえどころのないバンドだ。


 77年にEMI傘下ハーヴェスト(70年代前半までのピンク・フロイドをリリースしていた)からリリースされたデビュー・アルバム『Pink Flag』は、パンクのスピリットを凝縮した、もしくはその機能面を極限まで追求したような形で、30数分間に全21曲があっけらかんと並んでいた(3分台3曲、2分台3曲、1分台9曲、0分台6曲:笑)。


 後にUSバンド、マイナー・スレットが収録曲「12XU」をカヴァーしたことによって、ワイアーはハードコア・パンク・バンドの元祖(の元祖)のひとつと呼ばれても悪くないと思うのだが、意外とそこにはカテゴライズされていない。


 おそらく、ハードコア志向のひとたちが苦手なのであろう脱臼的ユーモア感覚が『Pink Flag』に色濃く漂っていたから、かもしれない。


 端的に言って、あれは、あらゆるひとたち(もちろん、ティーンエイジャーだったころのぼく含む)の頭を「なんじゃあ? こりゃあ?」と混乱させまくるものだった。むつかしいことを言って煙に巻くのではなく、その対極、表面的にはとてもわかりやすいものであり、「深遠? そんなの無縁だよー」ってな顔をしつつ、冷静に分析すると、むちゃくちゃディープ。まあ、だから、すごく「人間」的ってことかもね。


 そんな熱さと、極めて分析的かつ冷徹な(「理系」的な?:笑)クールさが同居しているのが、ワイアーの魅力だ。70年代末~80年代初頭のハーヴェスト(&ラフ・トレード)時代の音楽の印象では、どちらかといえば前者が勝っていた。最初に復活を遂げた80年代なかば~90年代初頭のミュート時代は逆だった。00年代に2度目の復活を遂げた際の初アルバム『Send』は、久々に前者寄り! って感じで、ものすごく興奮した。ただ、その後、ふたたび後者な感じになってきて、さて、この最新作は...?


 おい! なんじゃ、こりゃ! 「ごつごつした手触りで、捨てきれない理性を、表面上実にわかりやすくまとめる」手腕のかっこよさが、スタジオ・レコーディング作品としては10年ぶりくらいに激しく爆発してる。まさに前者寄り。音響的ゴシック度が最も高かったサード『154』に通じる部分もある...と感じたのは(それ以降の)彼らのアルバムを聴いて初めてかも?ってなうれしさを長年のファンに与えつつ、ワイアーのことをよく知らない新しいリスナーにも自信をもって(?)お薦めできる。


 『Send』リリース後、オリジナル・メンバーのひとりだったブルース・ギルバートが脱けてしまった。それは仕方ない。ただ、新しいツアー・ギタリストを加えてのライヴを数年前に代官山ユニットで観たけれど、新曲はもちろん古い曲も最高だった。今回は、そんな形で、2012年からライヴという場でワイアーに参加してきたマシュー・シムズ(ほかの3人より、30歳くらい若いらしい。だけど全然問題ない! ちなみにクッキーシーン近藤くんは、ぼくより25歳若いわけだし)が、曲作りの第一段階から関わった初めてのアルバムだという。


 なるほどね! バンドという生物に新しい血を導入することが見事に成功しているという意味で、これはギャング・オブ・フォーの(やはり素晴らしい)最新作に通じるわけだ。ワイアーの場合、それを、結成後40年近くたって初めてのセルフ・タイトル・アルバムにしてしまった...というのが、なんとも彼ららしい(笑)。



(伊藤英嗣)

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