DAVE DK『Val Maira』(Kompakt / Octave-Lab)

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 ようこそ桃源郷へ。とろけるようなサウンドスケープと多幸感をご堪能ください...なんて、筆者がレコード・ショップの店員なら、POPに書くかもしれない。そう想わせる作品は、デイヴDKによる本作『Val Maira』だ。


 デイヴDKは、1998年にMuller Records(ミュラー・レコーズ)からシングル「Nerven」をリリースして以降、コンスタントに良質なトラックを発表しつづけるベテラン・アーティスト。ベルリンのクラブ史を語るうえで欠かせないTRESOR(トレゾア)のレジデントDJとして名を馳せたが、2000年のデビュー・アルバム『Sens Ory Overload』以降のデイヴを知る者にとっては、ミニマル・ハウスが流行っていた2000年代のドイツ・クラブ・シーンを代表するDJ/アーティストのひとり、という認識がほとんどかもしれない。


 ちなみに本作は、前作『Lights And Colours』から実に8年ぶりのサード・アルバム。これまでのデイヴは、〝クラブ・シーンの人〟というイメージがどうしても拭いきれず、近い音楽性を持つザ・フィールドギー・ボラットDJコーツェなどと比較すれば幅広い層に聴かれていたとは言いがたいが、それも本作をキッカケになくなるだろう。


 終始ストイックな4つ打ちを貫きつつ、その4つ打ちに華を添える磨きぬかれたひとつひとつの音は、聴き手の郷愁を誘発するエモーションとサイケデリアをまとっていて非常に心地よい。また、少ない音数ながら、その音を組みあわせる豊富なヴァリエーションとそれを可能にするアイディアも秀逸で、本作に万華鏡のような華やかさをもたらしている。


 ヴォーカル・トラックはラストの「Whitehill」だけだが、ただヴォーカルを入れてポップ・ソングの体裁を整えた凡庸な作品よりも、本作の曲群は歌心を備えている。耳馴染みのよいメロディーと、聴き手に寄りそう柔らかな温もりを醸すサウンドスケープ。くわえて、高揚感に満ちたトランシーなグルーヴと、ここではないどこかへ導いてくれるひとときのグッド・トリップ。これらの魅力が、言葉のかわりに歌っている(と、書いてしまうと変に思われるかもしれないが、何も〝歌〟は言葉だけの特権ではない。〝音〟に歌わせることだってできるのだ)。


 そうした魅力はクラブだけでなく、外出先の電車内、ホテル、街中、そしてベッド・ルームなどなど、あらゆる場所で味わうことができる。そんな本作をクラブ・リスナーだけのものにしておくのはあまりにもったいない。



(近藤真弥)

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