ねごと『VISION』(Ki/oon Music)

ねごと『VISION』.jpg

 先日、HEAVEN'S ROCK宇都宮で、4人組バンドねごとのワンマンライヴを観てきた。これまで何度も彼女たちのライヴは観てきたけれど、バンド・アンサンブルが抜群で本当に驚いた。時にパワフルで、時に繊細で、時に叙情的で、その表情はさまざま。さらには風格まで漂わせるもんだから、「メンバー全員20代前半という若いバンドなのにこれはどういうことだ?」と思いながら、素直に「かっけえ!」と言えるライヴに筆者は身を任せていた。


 でも、よくよく考えると、ねごとは結成8年目のバンドだ。活動歴は意外と長く、その間にたくさんのライヴを重ねたのだから、風格が漂うのも半ば必然だろう。また、ねごとは2010年のメジャー・デビューから現在に至るまで、フル・アルバム2枚とミニ・アルバム2枚、そして多くのシングルを残している。たくさんの紆余曲折や試行錯誤を強いられたキャリアは、素直に順調だったと言えるものではないかもしれない。それでも、そんなキャリアを経たからこそ、ねごとは風格を見せることができたのだ。それはねごとが、さまざまな壁を乗りこえた経験をしっかり血肉化していることの証明だったと、今でも思う。


 そうした考えを巡らせつつ、ライヴ後にねごとの最新アルバム『VISION』を聴いてみた。もちろんライヴ前にも繰りかえし聴いていたけれど、ライヴ後にあらためて聴くと、本作にも風格があることに気づかされた。セルフ・プロデュースで作られた本作は、一言で表せば、ねごとがこれまで培ってきた技術や音楽的素養を多分に反映させた力作。アルバム全体に自信がみなぎり、バントの充実した雰囲気が伝わってくる。これまで以上にアイディアの多彩さが際立ち、ねごとなりにさまざまな挑戦をしている。基本的にキャッチーで耳馴染みの良いサウンドだけれど、よくよく耳を澄ませると、玄人を唸らせる技巧が浮かびあがってくる。


 特に驚かされたのは、「透明な魚」という曲。少ない音数でグルーヴを生みだすこの曲は、忙しないドラムのリズムが秀逸。コーラス・ワークも非常に手の込んだもので、曲の構成は、どことなくSPARTA LOCALS(スパルタ・ローカルズ)や、そのSPARTA LOCALSのメンバーを中心に結成されたHINTO(ヒント)を想起させる。また、筆者の耳からすると、ギャング・オブ・フォーやザ・フューチャーヘッズといった、イギリスのポスト・パンク・バンドを連想させる音でもある。あるいは、初期のフランツ・フェルディナンド、トゥー・ドア・シネマ・クラブ、ザ・クリブス...つまり、イギリスのロックを思わせるのだ。


 さらに、シングルとして先行リリースされた「シンクロマニカ」は、何度聴いてもテクノとして聴いてしまう。曲の展開はロックだけれど、トランシーなシンセサイザーの使い方とグルーヴは、ザ・ケミカル・ブラザーズやオービタルに通じる。実を言うと、本作は全体的に横ノリで踊れる曲が多い。縦ノリで激しく体を揺らすというよりは、体を揺らしながらも〝浸れる〟のだ。レッド・ツェッペリンを思わせるブルージーな「GREAT CITY KIDS」など、バンド感を打ちだした曲もある。しかし、アルバムを通して聴くと、〝もしかしてハウスやテクノを熱心に聴いてるのでは?〟と思う瞬間が何度もある。ゆえに本作は、一本調子ではない、すごく多様な楽しみ方ができる作品だ。家でじっくり聴いて、あれやこれやと語りながら楽しめる。それほどまでに本作はよく出来ているし、いろんな要素がこれでもかと詰まっている。


 それから、歌詞の面白さも見逃せない。たとえば「アンモナイト!」に登場する、〈アンモナイト! きみに会いにいかないと〉という一節。あるいは「endless」に出てくる、〈エンドレスキス 宇宙のキス きみをずっと待ってたんだ〉という一節。日本の歌には、メロディーの1音に対して1文字(言語学の音韻論では〝1モーラ〟とも言います)わりあてたものが多いけれど、いま例に挙げた一節を聴いてもわかるように、本作の歌詞は日本的だと言える。くわえて上手く切分音を操ることで、言葉の心地よいリズム感も作りだしている。こうした方法論は、Mr.Childrenスピッツが得意とするもので、いわゆるJ-POPでよく聞く言葉のリズムだ。それは言ってしまえば、日本語だからこそ生まれたもので、そうした日本的な言葉のリズムを操る術に長けているのが、ねごとの魅力だと思う。そう考えるとねごとは、〝日本のポップ・ミュージック〟を鳴らせるバンドのひとつだと言える。


 ねごとのライヴに行くと、中高生くらいのお客さんをたくさん見かけるけれど、同時に彼ら彼女らより上の世代もよく見かける。まあ、言ってしまえばおじさんおばさんなわけだけど、こうした人たちは、先に書いたあれやこれやと語れるところに惹かれた、いわば玄人だと思う。これまでいろんな音楽に耳を傾け、知識も豊富な人たち。つまりねごとは、世代間の橋渡しになれる音楽を鳴らしているのだ。そしてその音楽は、ポップ・ミュージックの魅力そのものでもある。



(近藤真弥)

retweet

トラックバック(0)

このブログ記事を参照しているブログ一覧: ねごと『VISION』(Ki/oon Music)

このブログ記事に対するトラックバックURL: http://cookiescene.jp/mt/mt-tb.cgi/4068