花澤香菜『Blue Avenue』(Aniplex)

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 自分の人生に最も影響を与えたアルバムはなんだろう? それはたぶん、ヤング・マーブル・ジャイアンツ『Colossal Youth』。ずいぶん前に出たドミノ/ホステス・ヴァージョンの2枚組CD日本盤ライナーノーツでも書いたとおり、そこで歌っていたアリソン・スタットンの声は、00年代以降...平野綾や『けいおん!』関係もへたあとに聴くと、とても「声優」っぽく聞こえる。


 最近あまりアニメ観てないし、音楽と特撮でいっぱいいっぱい、これ以上オタク趣味の対象はふやせない(汗)状態のぼくは、実は昨年にアルバム『25』がリリースされるまで、花澤香菜という声優の存在は知らなかった。


 でも、それを聴いて、完全にぶっとばされた。演奏やアレンジ、サウンドは(いい意味で)今っぽいとしか言いようのない絶妙なもの。もちろん彼女のヴォーカルもそうだった。


 ただ、後者は、まだ少し生硬な気もした。バックの演奏が、こなれすぎているだけに、なおさら...。


 それに関していえば、前作で最初に「なんじゃ、こりゃ!」という衝撃を受けたのは「Brand New Days」。自分が最も好きなラフ・トレード時代ではなく、その後「うん、やっぱ、これもいいね、好き!」くらいの時期...つまり80年代なかばごろのスクリッティ・ポリッティそのもの。いや、「パクリ禁止!」とか言うつもりは全然ないけれど、こりゃ、ちょっとやりすぎ。というか、まじめな話、この曲の方法論だけは、今っぽいコンセプトとはいえないな...と、あとで思った。


 そんなこんなで、楽しみにしていたニュー・アルバム『Blue Avenue』。スウィング・アウト・シスターのひとたちが参加という情報を見たときは(上記と、ほぼ同じような意味で)今っぽくないかも? 大丈夫か? そう思ったものの、完全に杞憂だった!


 なにより、ヴォーカルの生硬さが、かなり薄れている。


 やくしまるえつこ(相対性理論)がスタッフ参加した「こきゅうとす」のヴォーカルが、やくしまる自身のそれっぽくなってしまうのは、まあ仕方ないだろう。変な言い方で申し訳ないが、彼女の参加曲がそれだけで、よかった...。もちろん、この曲自体は素晴らしいのだが(そして、ぼくはこれで相対性理論ファン卒業、かも?)。


 もうひとつ気になったのは、まず文字情報を見てた(職業柄どうしてもそうなる...)とき、北川勝利が「Night And Day」の作詞作曲編曲を担当していると知ったこと。


 有名なスタンダード曲「Night And Day」のカヴァーではない。ぼくは、それは(ヤング・マーブル・ジャイアンツと同じ時期に)エヴリシング・バット・ザ・ガールによるカヴァー...ローファイ・ボサノヴァ・デビュー・シングルとして、さんざん愛聴した。


 そのシングルのアレンジっぽかったり、のちにエヴリシング・バット・ザ・ガールがストリングスをフィーチャーして華麗になったころを思いださせたりしたら、いやだなあ...と。だから「そういう形のオマージュ」は、今っぽくない!


 ところが、聴いてびっくり。ホーンセクションを大フィーチャーした「今以外の、どこでもない場所/時期の、クールでホットなビッグ・バンド・ジャズ」。そのスタンダード・ナンバー自体や、エヴリシング・バット・ザ・ガールと結びつく地点は、少なくとも表面的には皆無。つまり「純粋に聴く」楽しみが削がれることは、まったくなかった。心配がはれるどころか、アルバムのおりかえし地点にふさわしく、おおいにもりあがった!


 そんなコンセプトがもともとあったのかどうかは不明だが、アルバム全体をとおして、ぼくら(それぞれ)のまわりにいるような、決して特別じゃない女の子の、ちょっと背伸びした冒険話を聞いているようで、とても気持ちよく聴ける。実にグレイトな、同時代ポップ・ミュージック。


 それは街の子? それとも田舎の子? まあ、どっちでもいいんじゃない? 少し前、シティー・ポップという言葉が流行っていたころ、自分ではこう思っていた(なんか、どたばたしてて「どこかで書く」機会は逸してしまったたけど:笑)。


 シティー・ポップの最高峰? そりゃ加藤和彦『あの頃、マリー・ローランサン』以外のなにものでもないでしょ?


 あれは、80年代初頭の都会を流浪する、決してその町に「根を張っている」わけではない男の話だった。


 こちらは、そんなニュアンスで、それと同じくらい普通に、自由に生きている今の若者の話。


 そんなふうに考えつつ聴いていると、本編ラスト・ナンバー「Blue Avenueを探して」が、まるで(『あの頃、マリー・ローランサン』ラスト曲)「ラスト・ディスコ」へのアンサーソングであるかのように響いてしまう。


 ブルーな大通りを歩きつつ、青空ながめてたら、目からなにかが...。最高!



(伊藤英嗣)

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