THE CHARLATANS『Modern Nature』(BMG / Big Nothing)

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 80年代末から90年代初頭、イギリスで勃発したマッドチェスターのバカ騒ぎは日本に住む10代の僕にもしっかり届いていた。ただし、アシッド成分ゼロでね。インターネットが普及するのはまだ先の話。それでも、音楽雑誌をくまなくチェックしたり、レコード店に並ぶ最新のアルバムや12インチを買い漁っていたから、それほど時差を感じることもなく「僕らの時代がやってきた!」と鼻息を荒らげていた。


 ワイワイと先頭で踊っていたのは、ハッピー・マンデーズとストーン・ローゼズ。そしてインスパイラル・カーペッツがそれに続いた。その後ろにいるのはノースサイド? スープ・ドラゴンズ? それともモック・タートルズ? いや、〝インスパイラル・ローゼズ〟ことシャーラタンズかな?


 インスパイラル・カーペッツのハモンドとローゼズのメロウネス、そのふたつのいいとこ取りだなんて揶揄されていたシャーラタンズ。そんな彼らだけがこうして25年後もしっかり活動を続けてるって、あのとき誰が想像できただろう? 


 前作『Who We Touch』から約4年、12作目となるシャーラタンズの新譜『Modern Nature』を聴きながらそんなことを思っている。96年にはサウンドのキーマンだったロブ・コリンズを交通事故で失い、今作の本格的なレコーディング直前の13年8月にはドラマーのジョン・ブルックスが脳腫瘍で亡くなってしまった。それも〝あの頃〟には誰も想像できなかったことだとしても...。


 シャーラタンズは元々、音楽のために集まったメンバーで結成されたバンドだ。ローゼズやマンデーズのように地元の幼なじみがつるんでいるうちに結成されたわけじゃない。どっちが良いとか悪いとかではなく、単に始まり方が違ったのだ。ベーシストのマーティン・ブラントはネオ・モッズ・バンド、メイキン・タイムですでにキャリアをスタートさせていたし、ティム・バージェスはローカル・バンドのシンガーだった。彼らには、まず音楽があった。


 友情やお互いの信頼は、その少し後に確かなものになったのだろう。停滞だの解散だのを逃れることができたのも、彼らの中心には常に音楽があったから。それも、〝シャーラタンズでなければならない音楽〟があったから。そんな憶測もあながち的外れではないはず。だからこそ、彼らは幾度もの危機を乗り越えることができたのだと思う。


 いま、浜辺を歩く男たちは4人になってしまったけれど、穏やかな波にきらめく陽射しはやさしく、あたたかい。『Modern Nature』には、そんな音楽が目一杯つまっている。「The Only One I Know」と「One To Another」の骨太なグルーヴ、「North Country Boy」の素直さ、そして「Weirdo」の妖しさ。様々なフェイズのサウンドが次々に現れる。


 ジョン・ブルックスの後任はまだ決まっていない。今作には、ニュー・オーダーのスティーヴン・モリス(2曲)、ファクトリー・フロアのガブリエル・ガーンジー(3曲)、そしてジョンの容態が悪化してから度々サポートを務めたザ・ヴァーヴのピーター・ソールズベリー(5曲)がドラマーとして参加。マッドチェスターから90年代のブリット・ポップ、そしてデジタルにより音楽の在り方が大きく変化した00年代以降も、シャーラタンズがファンに愛され続けてきたことはもちろん、常に同時代のミュージシャンたちからも慕われていたことがうかがわれる人選だ。


 クールなカッティング・ギターとソウルフルなバック・コーラスが印象的な「Let The Good Times Be Never Ending」が今作のハイライトだと思う。長めのアウトロで鳴り響くグルーヴィーなハモンドに寄り添うホーンの響きが最高にカッコいい。そのトロンボーンを奏でるのは、デキシーズ・ミッドナイト・ランナーズのジム・パターソン。70年代末、ポスト・パンクの時代にパンクとノーザン・ソウルの融合を標榜していたデキシーズのメンバーが参加することは、スウィートでソウルフルな今作には必然であり、シャーラタンズのルーツを深く知るきっかけにもなるだろう。


 「この素晴らしい時間がずっと続くように」。シャーラタンズはそう歌い、僕たちを踊らせることによって、メンバーを失ったばかりの悲しみも長いキャリアからの重圧も軽やかに反転させてみせる。


 気がつけば、マッドチェスターのバンドどころかハモンド(電子オルガン)・サウンドとしてみんながすぐにピンとくるドアーズよりも数多くのアルバムをリリースし、ストラングラーズみたいにメンバー間のゴタゴタもなくここまで来た。決して万全の態勢ではないとはいえ、この『Modern Nature』はシャーラタンズの最高傑作だと思う。初期から彼らを追い続けてきた人にも、ここしばらくはちょっと離れていた人にも、「シャーラタンズって誰?」って言う世代にもきっと響くはずだ。



(犬飼一郎)


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