HELENA HAUFF『A Tape』(Handmade Birds)

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 ドイツのダンス・ミュージックといえば、ベルリンのテクノ・レーベルOstgut-Ton(オストグットトン)、あるいはザ・フィールドギー・ボラットなどの作品をリリースし、インディー・ロック・ファンにも知られているKompakt (コンパクト)が有名かもしれない。


 だが、ドイツのダンス・ミュージックを語るうえでは、ハンブルクも見逃してはいけない。ハンブルクは、ディープ・ハウスを中心に取り扱うSmallville(スモールヴィル)といった良質なレーベルがあり、さらにはそのレーベルを主宰するローレンスや、ニュー・エレクトロ・ブームを代表するユニット、デジタリズムの出身地でもある。要はハンブルクにも、追いかけて損はない音楽シーンがあるということ。


 こうしたハンブルクの豊穣な音楽シーンは、ヘレナ・ハウフという新たな才女を私たちにもたらしてくれた。ヘレナは、ハンブルクにあるThe Golden Pudel(ザ・ゴールデン・プードル)というクラブでDJのキャリアを重ねることで、頭角を表したアーティスト。トラック制作でも、「Actio Reactio」「Shatter Cone」など、興味深いシングルを残している。これらの作品は、レコード・ショップではテクノ・コーナーに置かれていることが多い。しかし、ヘレナの音楽はテクノだけでなく、EBM、インダストリアル、ドローン、エレクトロ(一応言っておくと、ジャスティスじゃないほうのエレクトロ)、そしてアシッドの要素も混在しており、ひとつのタグで括るのは大変難しい。また、EBMの要素は他の要素と比べても色濃く表れており、そう考えるとヘレナの音楽は、テクノというよりポスト・パンクと呼んだほうがしっくりくるかもしれない。ヘレナ自身も、ファクトリー・フロア「How You Say」のリミックスを手掛けたりと、DFA以降のポスト・パンク勢と交流している。


 そんなヘレナが作りあげた初のフルレングス作品、それが本作『A Tape』だ。内容は先に書いたEBM、インダストリアル、ドローン、エレクトロの要素が見られるものだが、これまでの作品群とは違い、ドライな音像がより際立っている。そこにアシッディーなサウンドと、お得意のEBMに通じるマシーナリーなビートが交わることで、妖艶かつドロッとした雰囲気が創出されている。まったく踊れないわけではないが、無闇にアゲていくわけでもないグルーヴは、終始〝冷〟と〝熱〟の間を突きすすんでいく。その様はおどろおどろしくもあるが、聴き手を興奮させる緊張感もまとっている。


 そうした本作は、何かしらの潮流なりジャンルに当てはまるものではない。そういった意味では孤高とも言える作品だ。それでも強いて言えば、Modern Love(モダン・ラヴ)などが旗頭となったインダストリアル再評価、過去のニュー・ウェイヴ/ポスト・パンク作品を積極的にリイシューしつづけるMinimal Wave(ミニマル・ウェイヴ)が発端となったカルト・ニュー・ウェイヴの流れ、そして、L.I.E.S.(ライズ)以降のロウ・ハウスといった、近年の面白い潮流がいくつも集った鵺のような音、ということになるだろうか。



(近藤真弥)



【編集部注】『A Tape』はカセット・リリースのみです。

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