WILCO『What's Your 20?: Essential Tracks 1994-2014』(Nonesuch / Warner)

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 さてウィルコ。いつのまにか「『このバンドを聴いてる』と言えば誰にもディスられないどころか、語りかける対象が同時代ポップ・ミュージックについて詳しければ詳しいほど『おっ、わかってるじゃん(笑)?』と言われるような存在」になってしまった。まあ「そういうバンドに対して、いいね!と言う」なんて行為はむしろ嫌いなんだけど(汗&笑)、バンドの音楽性やらメンバーたちにはなんの罪もないわけで......。


 正直言って、90年代なかばにデビューしたころから「最高に好き!」というわけじゃないにしても、常に二番手三番手的に愛聴してきたバンドだった。


 最初のころは、サン・ヴォルトらとともに、グランジ・ブーム全盛のアメリカで素敵なカントリー・オルタナティヴ・ロックをやってるいいバンドのひとつと目されていた。なかでも、ポップでキャッチーなメロディー作りの才能がずばぬけている...ようで、ジェイホークスあたりには負けてる......みたいな(笑)。


 90年代後半、ジム・オルークの力をかりて音楽的によりオルタナティヴな方向に傾くとともに、大昔はいわゆるクラシック/電子音楽のレーベルだったノンサッチに移籍、さらに00年代後半、ニュー・ジーランドの元スプリット・エンズ/クラウデッド・ハウス/セブン・ワールズ・コライドらとも深くからみつつ「ごつごつしたポップ性」を強調したこともあった。


 そのどれもが「さすが!」としか言いようのない動きだっただけに、最初に言ったような印象を強めた、ってことかな。


 これは、そんな彼らの20年以上におよぶキャリアを総括した(日本盤通常盤は2枚組という大ヴォリュームの)ベスト・アルバム。あらためて聴いた。そしたら、やっぱ、いいわ! こうやってまとめると、さらに聴きごたえが増す。超満腹!


 ビリー・ブラッグと組んで古いアメリカン・フォーク系音楽をカヴァーした企画盤2枚も含み、きれいに発表順に並んでる。こういう構成のベスト盤って、大昔は普通だったけど、(最初は新鮮だった)リリース時期を無視した並びのベストがむしろ最近は増えただけに、逆に新鮮であり「リッピングして発表年などを自分で入れこむ」作業も、やりやすくて、実にありがたい(笑)。


 こういうふうに「音楽マニアにとって、かゆいところに手が届く感じ」だから(以下略)。


 それはそれとして、あらためて聴いて感じたのは、先述した彼らの「音楽性の動き」が、当時感じた以上に自然な流れだってこと。彼らの音楽性は、常に幅広いものだった。ある一方向に強く傾いていないから、「押し」は強くない。


 ねじれてるけど、上品?


 いや、そうでもない。「わかりづらい」けど、ちゃんと「極めて素直に言いたいことは言ってる」感じ。ウィルコの音楽って、やっぱ理想的な汎米的同時代ポップ・ミュージックだよ、と思いつつ、その分「Impossible Germany」なんて曲もあることが、あらためて気になったり...。


《Impossible Germany / Unlikely Japan / Wherever you go / Wherever you land / I'll say what this means to me / I'll do what I can》

《ドイツ人ってのは無理...違うし / 日本って感じでもない / どこへ行っても / どこに着地しても / こんなふうに自分にとって意味のある / 自分にわかることを言う......できることをするだけ》


 ね、アメリカ人っぽくない? いい意味でさ!


 そういえば...。もうすぐ? フィリップ・K・ディックの『高い城の男』が映画化されるらしい。もちろんアメリカ人であるディックが60年代初頭に描いた、いわゆる枢軸国側が勝利を収めたパラレル・ワールドのお話。でも、原作は意外と「政治的」ニュアンスは薄かった。むしろ「情けないアメリカ人の(狂った世界での)日常生活」に、おおいに共感できた。



(伊藤英嗣)

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