NEU BALANCE『Rubber Sole』(1080p)

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 最近、オーストラリアのエア・マックス97(Air Max'97)というトラックメイカーにハマっている。彼の音に触れたキッカケは、ビョーク「Pluto」のエディット。その強烈なベースと破壊的なキックに筆者は一瞬でノックアウトされてしまった。そのあと、彼がロンドンのLiminal Sounds(リミナル・サウンズ)からリリースした「Progress And Memory」と「Fruit Crush」という2枚のEPも手に入れた。特にお気に入りなのは前者で、Fead To Mind(フェイド・トゥ・マインド)やNight Slugs(ナイト・スラッグス)に通じる無機質でメタリックなサウンドとジュークの性急なビートが交わる表題曲は、いまでもよく聴いている。


 そんなエア・マックス97を発見したある日、偶然にしては出来すぎなユニットも見つけてしまった。その名もズバリ、ノイ・バランス。スペルは〝新しい〟を意味するドイツ語の〝Neu〟に、英語の〝Balance〟。なんだか靴のニュー・バランス(New Balance)みたいで面白いと感じながら、彼らのツイッターアカウントを見てみると、アイコンがニュー・バランスのアウトソールで思わずクスッとしてしまった。エア・マックス97にノイ・バランス、どうやら現在のダンス・ミュージック・シーンは靴であふれているようだ。


 カナダのヴァンクーヴァーを拠点に活動するノイ・バランスは、サム・ビーチとセバスチャン・デヴィッドソンによるふたり組。1080pからリリースされた本作『Rubber Sole』がファースト・アルバムで、これまで主なリリースもなかったらしい。ゆえに本作でノイ・バランスを知ったという方も少なくないだろう。ちなみに彼らのルックスは、1080p主催のライヴ・イヴェントに出演した際の映像でチェックできるが、いわゆるオタクそのもの。ふたりとも眼鏡をかけており、たくさんのクラバーに囲まれたなかで演奏するその姿は、クラブよりベッドルームが似合う気もする。


 そのベッドルームというキーワードは、本作にも当てはまる。100%Silkに通じるラフなビートと夢見心地な音粒が光るハウス・ミュージックを基調としており、いわゆるDJがプレイしやすいフロア・トラックはほとんどない(もちろん、優れたDJはプレイできるセットリストを組みたてるのだが)。全体的にBPMも遅く、往年のダンス・ミュージック・ファンはアンビエント・ハウスなんて言葉が頭に浮かぶかもしれない。また、100%Silkに通じるという点をふまえれば、このレーベルを旗頭に巻きおこった数年前のインディー・ダンス・ブーム以降の音とも言える。ほんの少しサイケデリックで、どこか郷愁を抱かせる音。それでいて心を飛ばしてくれるグルーヴがあり、ひとりヘッドフォンをしながらニンマリしてしまう人懐っこさ。音数が少なく、それゆえひとつひとつの音がまっすぐ耳に飛び込んでくるサウンドスケープ。しかもその音がどこか煌めきを宿しているのだから、何度も聴いてしまう。そう考えると本作は、ひとつひとつの音を楽しむためのアルバムと言えるかもしれない。


 そして、多彩な音楽性もノイ・バランスの特徴だ。「Sheffie」のベース・ラインはジャズの要素を匂わせ、耳触りがよいホワイト・ノイズが印象的な「trsx moon」は、スティーヴ・ライヒやフィリップ・グラスなどが有名なミニマル・ミュージックを想起させる。さらに桃源的なアンビエント・トラック「May B. So」は、Rainbow Pyramid周辺の新世代ニュー・エイジ・サウンドを思わせる仕上がり。このように本作は、どの文脈でも解釈できる大きな余白を備えている。あなたから見て本作はどう映るだろうか?




(近藤真弥)




【編集部注】本作はカセット・リリースです。デジタル版は1080pのバンドキャンプでダウンロードできます。

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