左右『スカムレフト スカムライト』(Yellow Label)

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 聴き手に最短距離で届く言葉を持つポップ・ミュージックは、言葉だけが突出してるわけではない。どれだけ鋭い言葉があっても、それを聴き手に届けるためのリズムや音像が疎かでは、言葉は宝の持ち腐れとなってしまう。言ってみれば、F1カーのエンジンを軽自動車に積んでもチグハグして機能しないのと同じ。言葉、リズム、音像がそれぞれガッチリ噛みあわなければ、聴き手の心に残る音楽は生まれない。もちろん、噛みあわせ方は人それぞれだ。そして、このそれぞれによって生じるのが〝音楽性〟という名の個性である。なんてことは、偉そうに書くほどのことではないのかもしれないが...。


 しかし、あらためてそう強く思わせてくれるのが、『スカムライト スカムレフト』というアルバムなのだ。本作を作りあげた左右(さゆう)は、花池洋輝(ヴォーカル/ベース/ドラム)と桑原美穂(ヴォーカル/ギター)による2ピースバンド。2010年に結成され、横浜を拠点に活動している。2012年に「左右-EP」をリリースしており、本作がファースト・アルバムとなる。


 そんな左右の音楽は、ヒリヒリとした緊張感を漂わせるミニマルなサウンドが持ち味。花池がドラムとベースを同時に演奏するなど、形態は変わってるかもしれないが、サウンドにはそこらのバンドなんかでは生みだせない凄みが宿っている。左右を初めて聴いたときに想起したのは、70年代後半から80年代前半にかけてのポスト・パンクとノー・ウェイヴ。バンドでいうと、ギャング・オブ・フォー、オー・ペアーズ、ザ・ポップ・グループ、ジェームス・チャンス・アンド・ザ・コントーションズなどなど。ただ、ギャング・オブ・フォーやオー・ペアーズなどが得意とする、性急な4つ打ちを前面に出しているわけではない。グルーヴも直線的ではなく、間を活かした変則的なものだ。それでも、桑原の鋭利で金属的なギター・サウンドは、ギャング・オブ・フォーの中心人物、アンディー・ギルのギター・サウンドを連想させる。


 そうした要素は本作でも健在だが、アルバムとして左右の音楽を聴いてみると、新たな発見もいくつかあった。まず、ギター、ベース、ドラムといった音のリズムと歌詞のリズムが密接に関係しているということ。それは「簡単なことだろ」「なくならない」などで顕著に表れているが、左右は音のリズムと歌詞のリズムをシンクロさせることに意識的なのかもしれない。言うなれば、すべてがリズム・パートと解釈できる曲で本作はほぼ占められている。こうした聴体験は、『Whatever People Say I Am, That's What I'm Not』期のアークティック・モンキーズや、ザ・ラプチャーを聴いたときのものに近い。


 もうひとつは、歌詞にさまざまな解釈を受け入れる懐の深さがあるということ。たとえば「平和なのか」は、他愛のない日常的風景に隠された闇を浮き彫りにするような歌詞である。この歌は、ユーモアという名のフィルターを通した焦燥が目立つ他の曲群とは違い、淡々と言葉を紡ぐ独白的なものに仕上がっている。もしくは、現実に疑問を抱いた者の自問自答と言っていいかもしれない。だが、この自問自答はその実、聴き手のあなたにも当てはまるものだ。なぜかといえば、「平和なのか」の冒頭で歌われる日常的風景は、歌に出てくる〝俺〟だけではなく、あなたも普段よく見ている風景だからだ。それこそ、〈普通の街の風景〉(「平和なのか」)。


 左右というバンド名、それからアルバム・タイトルの『スカムレフト スカムライト』から、一種の〝政治的〟な匂いを嗅ぎとることも可能だろう。〝どちらでもない〟という選択肢を許さない風潮が広まっている現在の日本をふまえれば尚更。とはいえ、こうした推測に対するハッキリとした〝答え〟を本作は示していない。〈壊れたフリしてうたった歌の味はすぐになくなった〉(「なくならない」)、〈俺はそういうことをされるのが嫌だからいますぐやめてくれ〉(「やめてくれ」)など、断定的な言いまわしが多く見られるものの、あくまで裁量権は聴き手に委ねられている。いわば本作の言葉は、言い切ってるが言い切ってないというアンビヴァレントな言語感覚を獲得している。この言語感覚と類似する作品を強いて挙げれば、坂本慎太郎『ナマで踊ろう』と、オウガ・ユー・アスホール『ペーパークラフト』になるだろうか。


 ただひとつ、本作について確実に言えるのは、本作に込められた音や言葉が〝今〟と〝その先〟を見せてくれるということだけだ。



(近藤真弥)

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