赤い公園『猛烈リトミック』(Universal)

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 もしかすると、赤い公園というバンドは気分屋なのかもしれない。たとえば、ファースト・アルバム『公園デビュー』に収録された「今更」は、一聴すればメロディーが耳に残るキャッチーなポップ・ソングである。だが同アルバムには、実験的で殺伐とした音像が際立つ「つぶ」みたいな曲も収録されている。そもそも、メジャー・デビュー・ミニ・アルバムにあたる「透明なのか黒なのか」「ランドリーで漂白を」からして、赤い公園が一筋縄ではいかないバンドであることを示していた。圧倒的な勢いとカオスが渦巻いた前者、そして赤い公園の中心人物である津野米咲の高いソングライティング能力が前面に出た後者は、作風が驚くほど違うこともあって、それぞれ "上盤(黒盤)" と "下盤(白盤)" に分けてリリースされた。どうにか1枚にまとめてファースト・アルバムにする手もあったと思うが、赤い公園が持つ膨大なエネルギーと音楽的彩度は、1枚のアルバムという形に収めるのが難しいのも事実。だからこそ筆者は、エネルギッシュな空気で満ちた『公園デビュー』に対して、散漫すぎる印象をぬぐい去ることができなかった。


 しかし本作には、『公園デビュー』で見られた散漫さがない。メンバー全員の演奏スキルが格段に上がり、津野米咲のソングライティング能力もさらに磨きがかかっている。「透明なのか黒なのか」の粗削りな音が好きなリスナーからすれば戸惑う作風かもしれない。だが、考えぬかれたうえで鳴らされた本作の音は、やはり魅力的だ。ひとつひとつの音色もこれまで以上に練られていて、聴くたびに驚きがある。そんな充実したバンドの雰囲気は、その名もズバリ「楽しい」という曲にも表れていると思う。


 また、KREVAをゲストに迎えた「TOKYO HARBOR」は、赤い公園の新たな側面が示された曲として非常に面白いものだ。ヒップホップの要素を滲ませながら、街の一場面を切りとったような歌詞とアーバンな雰囲気を醸すサウンドスケープは、80年代のシティー・ポップを連想させる。筆者からすると、SeihoとAvec AvecによるSugar's Campaignやtofubeatsの名も浮かぶのだが、そうした新世代と共振できるという意味でも興味深い。


 そんなアルバムを最後まで聴きとおすと、本作が "歌" を強く意識したポップス・アルバムであることがわかるはず。"みんなのうた" と言える親しみやすさを備えた曲が多く収められ、そうした内容に呼応したのか、佐藤千明の歌声はその表現力を飛躍的に高め、艶も増している。その歌声は間違いなく、ポップス・アルバムとしての本作をより魅力的にする大事な要素だ。


 本作は、赤い公園がこれまで残してきた作品と比べれば、飛び道具は少ないしカオスも減退している。だが、繰りかえし何度も聴きたくなる味わい深さを持った作品であることは確かだ。その味わい深さは言いかえれば、ボディーブローのようにじわじわリスナーの耳に浸透していき、安易に消費されない強さとも言える。少なくとも、瞬く間に消費され捨てられるインスタント・ポップとは一線を画する。こうした多くの人に届けるための普遍性に挑みつつも、自分たちだけの音を鳴らすことも忘れない姿勢に、筆者は盛大な拍手を送りたい。



(近藤真弥)

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