THE 2 BEARS『The Night Is Young』(Southern Fried / P-Vine)

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 いまでこそザ・2・ベアーズは、裏方として音楽業界で生きてきたラフ・ランデルとジョー・ゴッダード(ホット・チップ)のユニットだと知られている。だが、デビューEP「Follow The Bear」(2010)がリリースされた当時は、ガーナ出身のクマ2匹によるユニットらしいという情報も流れたりと、少々うさんくさい雰囲気があった。まあ、すぐに正体がバレたことをふまえると、かなり雑な設定だったのは容易に想像がつく。ふたりも当初の設定にこだわりを持っていないようで、MVやアーティスト写真でも堂々と素顔を見せている。いまだアンドロイドであり続けるダフト・パンクとは大違い。


 とはいえ、ふたりの作るポップ・ソングが魅力的なのは確かで、しかもイギリスのクラブ・カルチャーに向けられた愛情も備えている。それは本作『The Night Is Young』でも健在。特に2曲目の「Angel (Touch Me)」なんて、マッドチェスターやセカンド・サマー・オブ・ラヴ期のイギリスを連想させるハウス・ミュージックである。また、この曲に限らず、本作では随所でマッドチェスターやセカンド・サマー・オブ・ラヴに対する憧憬が見受けられる。「Angel (Touch Me)」ほどではないにしろ、ほとんどの曲で80年代末から90年代前半のハウス・ミュージックのエッセンスが漂っているのだ。作品で例を示すと、ニュー・オーダー『Technique』、そのニュー・オーダーのバーナード・サムナーがジョニー・マーと結成したエレクトロニックの『Electronic』、さらにはペット・ショップ・ボーイズ『Introspective』のような音。それゆえ、お世辞にも "斬新!" と言える作風ではないが、過去のダンス・ミュージックが持つ面白さを現在に伝えるという役目はしっかり果たしている。そこにポップ・ソングとしての人懐っこさがあるのも、ザ・2・ベアーズの持ち味。


 そうしたサウンド面だけでも、イギリスのクラブ・カルチャーに向けられた愛情は十分に表現できているが、本作にまつわるヴィジュアル面も興味深いので書いておく。まずは、本作から先行で公開された「Angel (Touch Me)」のMV。ドライバーが酒を呑んで酔っぱらう様が描かれているように見えるが、錠剤らしきものを口に含んだあと笑顔で踊りだし、そのあと異様な発汗に襲われる描写もあることから察するに、錠剤はエクスタシーだと思われる。エクスタシーといえば、マッドチェスターやセカンド・サマー・オブ・ラヴを語るうえで欠かせないドラッグだが、そんなエクスタシーの効果と副作用を約3分のMVにしてしまうセンスは、思わず笑みがこぼれてしまうほどストレート。くわえて絶妙なのが、ドラッグを称揚する内容になっていないこと。それこそ映画『トレインスポッティング』のように、あくまでひとつの文化として存在するから描いているに過ぎない。こうしたドラッグに対する姿勢を日本人が完全に理解できるかは正直わからないが、ここはひとつ、"お国柄の違い" を楽しんでくれたらということで。


 そして、もうひとつ本作から公開された「Not This Time」のMVでは、多くのドラァグクイーンがフィーチャーされている。もともとドラァグクイーンはゲイ・カルチャーのひとつだが、クラブ・カルチャーにも影響をあたえているのは、ダンス・ミュージックを熱心に追いかけている者からすれば説明不要だろう。クラブ・カルチャーは、ゲイなどのマイノリティーと呼ばれる人たちの受け皿にもなってきた歴史があるだけに、そうした歴史に対する目配せを「Not This Time」のMVは表現したと言える。ラフとジョーは、本質的にはクラブ・カルチャー畑の出身じゃない門外漢だからか、こうした "気配り" を欠かさない。そう考えると、スウィートなレゲエ・ナンバー「Money Man」で、サウンド・システム文化を讃える「Soundbwoy」などが有名なジャマイカ出身のスタイロGをゲストに迎えたのは、慧眼の一言に尽きる。ザ・2・ベアーズが拠点とするイギリスとサウンド・システムは、切っても切れない関係だからだ。たとえば、50年近い歴史を持つイギリスの祭り "ノッティング・ヒル・カーニバル" が、ジャマイカからイギリスに移り住んできた人たちによってサウンド・システム文化が持ちこまれたことをキッカケにして生まれたのは有名な話かもしれない。このサルサやレゲエが鳴り響く祭だけでなく、イギリスで誕生したジャングルやダブステップなども、サウンド・システムの強い影響下にある。これらのことをふまえると、スタイロGの起用には "さすがわかってる!" と膝を打ってしまうのだ。


 時として、"内部" よりも "外部" のほうが、その文化に宿る寛容性や魅力を上手く表現できるのかもしれない。それこそ、セカンド・サマー・オブ・ラヴの空気を的確に捉えた、プライマル・スクリーム『Screamadelica』のように。



(近藤真弥)

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