OBJEKT『Flatland』(PAN / Melting Bot)

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 オブジェクトことTJ・ハーツは、実に多面的な男である。《Hessle Audio》からリリースした「Cactus / Porcupine」はポスト・ダブステップを代表するシングルのひとつだが、「Objekt #2」収録の「CLK Recovery」では、ストレートな4つ打ちが特徴のテクノを披露している。とはいえ、オブジェクトの音楽はダブステップやテクノだけで構成されているわけではなく、ある者にとってはUKガラージの因子を見いだせる音だろうし、コスミンTRGとのスプリット・シングルに収録の「Shuttered」を聴いた者は、ドレクシアなどのエレクトロが流入していると感じるだろう。それほどまでにオブジェクトの音楽は多角的で、聴き手のあらゆる解釈に耐える懐の深さを持っている。


 そうした音楽を鳴らす才に恵まれたオブジェクトが、ファースト・アルバム『Flatland』のリリース元に選んだのは、ベルリンを拠点とする《PAN》。リー・ギャンブル『KOCH』やジェームズ・ホフ『Blaster』に象徴される、実験的かつ急進的な作品を数多くリリースし、昨今のエレクトロニック・ミュージック・シーンのなかでも一際注目されているレーベルだ。活動当初はジ・エックスエックスFKAツイッグスの作品を取り扱う《Young Turks》からシングルを出していただけに、なんだか極北に来てしまったなと言いたくもなるが、お似合いといえばお似合いである。


 さて、肝心の『Flatland』を端的に表すと、なんとも掴みどころがないアルバムのように思えてしまう。まず、キラキラとした未来的なサウンドスケープが際立ち、さまざまな音楽が撹拌された作風は、ロゴスの『Cold Mission』を想起させる。だが、このアルバムがジャングルやグライムの要素を醸すのと比べれば、『Flatland』の音はμ-Ziq(ミュージック)などのIDMに近い。そう考えると、ローン『Reality Testing』やフォルティDL『In The Wild』といった、ここ最近IDMを取り入れた作品が多くなってきた流れとも共振できる。


 とは言っても、「Ratchet」や「Strays」では先に書いたエレクトロを前面に出しており、いわばオールド・スクールなノリも強い。しかし、無機質で冷ややかな質感が際立つ「One Stitch Follows Another」は、シフテッド主宰《Avian》周辺のUKハード・ミニマル、あるいはハーツが住むドイツの《Ostgut Ton》に通じるサウンドである。


 こうした内容の『Flatland』は、過去~現在~未来が溶解した状態で存在し、高い音楽的彩度を誇る作品だ。それゆえ、"◯◯なアルバム" と断定するのが難しく、聴く人の感性次第でいかようにも姿を変えてしまう。再帰的な結論になってしまうが、ある者はIDMだと言い、ある者はエレクトロだと言い、ある者はテクノだと言うだろう。だから筆者も、"◯◯なアルバムだ!" と断言できないが、よりどりみどりな作品になったことで、『Flatland』は聴き手を夢中にさせる多彩さを獲得できたのだ。Resident Advisorのインタヴューでハーツは、『Flatland』について「この仕上がりにはとても満足していますけど、自分から取り除かないといけない要素がある気もしています。なので次回はもっとフォーカスした結果になるでしょうね」と語っているが、今回に限って言えば、フォーカスしなかったことでオブジェクトの多様性が見事に表れたと言える。



(近藤真弥)

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