DJ SPOKO『War God』(Lit City Trax)

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 南アフリカのハウス・ミュージックを愛聴する人は、いったいどれだけいるのだろう? 最近は配信サイトでも買えるようになったとはいえ、日本のレコード・ショップのハウス・コーナーに並んでいるのは、イギリス、アメリカ(特にニューヨーク)、ドイツのものがほとんど。日本では、南アフリカのハウス・ミュージックがリスナーに行きわたっているとは言えない。


 じゃあ南アフリカ産ハウスのクオリティーが低いのかといえば、決してそうじゃない。2010年に「Superman」というフロア・ヒットを放ったブラック・コーヒーは世界的なDJ/プロデューサーだし、その「Superman」にヴォーカルで参加したブシーは、『Princess Of House』という良質なハウス・アルバムを残している。他にもリキッディープやCWBが質の高いシングルを発表したりと、南アフリカのハウス・ミュージック市場は日本のリスナーが想像するよりも遥かにデカい。それは、ブラック・コーヒーのフェイスブックの「いいね!」数にも表れていると思う。


 そんな南アフリカから、またひとつ興味深いハウス・ミュージックが届けられた。DJスポコの『War God』である。DJスポコは12歳でプロデュースを始め、南アフリカで10年近く活動している男。南アフリカのダンス・ミュージック、シャンガーン・エレクトロの第一人者ノジンジャからサウンド・プロダクションを学んだそうだが、DJスポコは自身の音楽を"バカルディー・ハウス"と呼んでいる。


 確かにDJスポコのサウンドは、シャンガーン・エレクトロと呼べるものではないし、ブラック・コーヒーのソウルフルで上品なハウス・トラックとも違う。粗々しい質感が特徴の音粒に、性急かつ肉感的なグルーヴ。そして何より、汗臭い。お祭り騒ぎの祝祭感であふれ、性欲すらも漂わせる猥雑な雰囲気。それゆえ『War God』に収められた曲のすべては、聴いていて楽しめるものであるのは間違いない。シンセの音からはシャンガーン・エレクトロの影響も見受けられるが、リズミカルな展開とチープで享楽的なところは、南アフリカのクワイトに通じる要素をうかがわせる。こうしたバカルディー・ハウスと類似するサウンドといえば、ブラジルのテクノブレーガと呼ばれる音楽だろうか。要は、踊って楽しんだもん勝ちな音楽であるということ。


 だが、トラックにつけられた曲名は暗喩を滲ませる。アルバム・タイトルもそうだが、「More Pain」「Civil War」などは、タウンシップと呼ばれる黒人居住区に住んでいたDJスポコの背景を考えると、どうしても意味深に思えてしまう。南アフリカといえば、かつて人種隔離政策のアパルトヘイトがおこなわれていたことでも有名だが、タウンシップはアパルトヘイトの影響で黒人が強制的に住まわされた場所という歴史を持っている。その影響は、アパルトヘイトが完全撤廃されたいまも差別や格差という形で残っているのは有名かもしれない。華やかなダウンタウン、それから住民の多くが白人のゲーテッド・コミュニティーと呼ばれる高級住宅街の目と鼻の先に、タウンシップはあるのだ。さらには"ブラック・ダイヤモンド"と呼ばれる黒人の中間所得層も出てくるなかで、黒人間の格差も問題になっている。こうした南アフリカの現状をふまえると、「Man In Black Suit」や「Captain Jack Spoko」といった、とある有名なアメリカ映画をネタにしたであろうタイトルも皮肉に見えてしまうが・・・。DJスポコは、《True Panther Sounds》からリリースしたシングルに「Ghost Town」と名づけるような男だから、ありえなくもない。


 そう考えると『War God』は、"踊り" や "祭り" 自体がひとつの抵抗手段や主張になりえることを証明したアルバムだと言える。パラダイス・ガラージの熱気、アシッド・ハウスの狂騒、そしてハーキュリーズ&ラヴ・アフェアがそうであるように。人は都合よく記憶を風化させる生き物だが、そのような者たちが『War God』を聴いてどう感じるのか、非常に興味深い。


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