LA ROUX『Trouble In Paradise』(Polydor)

|
ラ・ルー.jpg

 大ヒット・シングル「Bulletproof」などを収めた前作『La Roux』から約5年、パートナーを務めていたベン・ラングメイドの脱退という困難に見舞われながらも、エリー・ジャクソンはセカンド・アルバム『Trouble In Paradise』を完成させた。それにしても、本作のタイトルを見て、筆者は思わず身を仰け反らせてしまった。というのも、『Trouble In Paradise』は、1932年に公開されたエルンスト・ルビッチ監督による映画と同名なのだ(日本では『極楽特急』として知られているだろうか?)。この興味深い気づきの類例は、《映画を観たあとに 鏡をみると 女優になれない わたしがいるのよ》という一節が登場する、小島麻由美「恋の極楽特急」を聴いたときくらいか。


 それはさておき、映画のほうの『Trouble In Paradise』は、泥棒カップルが香水会社経営の美人女社長を詐欺にかけるはずが、泥棒の男が女社長に恋をして三角関係になってしまい、詐欺計画が上手く進まないという内容のコメディー。一方のラ・ルー『Trouble In Paradise』は、本作のリリースに伴ういくつかのインタヴューでも本人が述べているように、前作の大成功がもたらしたプレッシャーによる苦しみを経て作られたアルバム。実はこの両者、共通点がまったくないとは言えない。前者は泥棒カップルと美人女社長、そして後者は、スターとしてのエリーとそんなエリーに熱狂する大衆、加えてそうした状況に苦悶するもうひとりのエリーという三角関係を見いだせるからだ。本作の歌詞は、スターとしてのエリーと大衆の関係を客観的に見つめる、もうひとりのエリーの視点が色濃い。特に「Cruel Sexuality」や「Silent Partner」などで、それは顕著に表れている。


 だからといって、重苦しい雰囲気かといえばそうじゃない。むしろ、軽快で耳に心地よいエレクトロ・ディスコなサウンドも手伝って、注意深く聴かなければ歌詞が孕む毒に気づくことはまずないだろう。あくまでも体裁は、ラジオ、iPod、ダンスフロアなどを通して誰もが楽しめるポップ・ソングだ。それほどまでに本作のエリーは、5年の間に味わってきた苦難を感じさせない。


 こうして作品にすることで、そびえ立つ強固な壁を乗りこえたのだろうか? と、いろいろ想像しながら楽しめてしまう本作。私たちが消費するスピードを上回る速さで、次々と生まれる新しい音を熱心に追いかけるのも悪くないが、ひとつの立派な円熟をじっくり味わうのもたまにはいいはずだ。



(近藤真弥)

retweet