Kate『TODAY』(Wang Tang)

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 少し前、電車を乗り過ごしてしまい、気がついたら河川敷の景色を眺めていたことがあった。ヘッドフォンからは何気ない優しさで気持ちを射抜かれるような、Kate(ケイト)のこのアルバムが流れていた。ゆるやかな川、広い土手と空を舞う鳥たち。夕暮れ時の河原を歩く女子中学生や、のんびり犬の散歩をしているおじいさんにも、きっと誰にでも「こんな感じ」があるんだろうなあと思った。


 ケイトは、2009年より活動をスタートさせた3人組。個性的でありながら隙間のあるサウンドがどこまでも気持ちいい。2012年から約2年かけて制作された今作は、ひと言で言ってしまえばピアノをベースにしたインディー・ポップ・ミュージック。澄み切った青空のように爽やかな、極上のポップ・アルバムとなっている。メロディーの良さはもちろんのこと、何といっても心に響くのがヴォーカリスト、リン(中国人女性)の歌声。良い意味での青臭い彼女のヴォーカルはほんと、グッとくる。イギリス? 中国? アメリカ? ブラジル? 東京? その全てのようでどれでもない。まさしく異国を何ヶ国にも渡ってずっと旅してるような感覚。それが、いつのまにか聴く人それぞれの心象風景と重なってリアリティーを帯びていく過程こそが『TODAY』のスリルだ。『TODAY』というタイトルとヴォーカリストであるリンの優しいファルセット気味な声から、初めは毎日の生活に寄り添うような温かい音楽という印象を受けたが、聴いていくほどに煌びやかな、そして少しの過激さがなんとも頼もしく思えてくる。カラフルでポップなサウンドだけど前のめりな所もあって、耳に馴染みやすいグッド・メロディーなのにBGMになるつもりはさらさらなくて。むしろ、マンツーマンなコミュニケーションを迫られるようだ。


 歌詞も、"どこから来て何をするのか。99%の信頼と1%の裏切り。創作と秩序と破壊を行うのは神のみ。人間は考えて試して諦めるだけ。"という内容を歌った「99% Is Sincere for You」や、"多すぎることも少なすぎることもない。惑星が行ったり来たりする宇宙の物理法則に従っている"という内容の「Physical  Laws」など、ハート・ウォーミングな曲のイメージとはそぐわないものだったりする。そういったほんの少しの違和感といつか見た夢の断片を丁寧に繋ぎ合わせたような趣があちこちで顔を覗かせていて、それを発見するたびにハッと息を呑んでしまう。ともかく、『TODAY』にはまだ見たことのない景色が広がっているし、果てしなさを見せつける音世界に思わずゾクゾクする。聴けば聴くほどパンチを喰らわされる唯一無二の作品だ。



(粂田直子)

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