KANE WEST『Western Beats』(PC Music)

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 ロンドンのレーベル《PC Music》を知ったのは、今から1年前くらいになるだろうか。キッカケは、ダニー・L・ハールの「Broken Flowers」という曲だった。シンプルなハウス・ビートに、哀愁を漂わせるメロディー。初めて耳にしたとき、なんだかオーパス3の「It's A Fine Day」を想起してしまったことは、今でも鮮明に覚えている。そこから《PC Music》のリリース作品を漁ってみると、トラップ・ビートに心地よい緩さを持つラップが乗るGFOTY「Bobby」や、UKガラージをキュートに鳴らしたデュックス・コンテンツ「Like You」など、バラエティー豊かなカタログであることもわかった。このあたりは、さまざまな要素が混合した音楽を数多く生み出してきたイギリスのポップ・ミュージック史に通じるなと思ったり。


 また、《PC Music》はヴィジュアル面も面白い。リリース作品のほとんどはサイトでフリーダウンロードできるのだが、作品ごとに凝った仕掛けが施されている。そのほとんどが思わずクスッとさせられるものだから、サイトを散策しているだけでも楽しい。こうしたトータル・アート的な見せ方は、同じく新世代のレーベルとして注目を集める《Night Slugs》とも共振するものだ。アーティストでは、FKAツイッグスやアルカなども、トータル・アート志向の持ち主と言えるだろう。ヴィジュアルやイメージなども重要視する多角的な見せ方は、数多くの娯楽で溢れる現在においては自然な選択なのかもしれない。膨大な情報量が行き交う現在、ただ音楽を作って発表するだけでは、多くの人に知ってもらうことは難しい。いま、最先端とされているレーベルやアーティストの多くが、ヴィジュアル面でも独自性を明確に打ち出しているのは、おそらく偶然ではないはずだ。


 さて、今回取り上げたケイン・ウェスト(と読むのだろう)の『Western Beats』、《PC Music》からのリリースにしては渋いと言えるサウンドだ。「Gameset」で鳴り響く人工的でツルッとしたシンセは《PC Music》印と言えなくもないが、全体的には、2000年代前半に隆盛を極めたエレクトロクラッシュ、それから初期の《Turbo》に通じる、シンプルでチープなサウンド・プロダクションが際立っている。音の抜き差しは最低限にとどめ、執拗な反復によって高い中毒性を生みだす。それでいて、ダンスフロアだけで通用するような偏った音作りはせず、iPhoneに入れて外で聴くというシチュエーションにも適したポップネスを備えている。収録曲から適例を挙げると、ミニマルなリズムの上に女性ヴォーカルのリフレインが乗った「Baby How Could We Be Wrong」や、ケロケロボニトのセーラが参加し、隙間だらけのビートが耳に残るシカゴ・ハウス「Good Price」になるだろうか。


 一方で、「Power Of Social Media」ではヒットハウスの「Jack To The Sound Of The Underground」をサンプリングしたりと、過去のダンス・ミュージックに対する造詣もうかがえる。こうした側面は、先に書いたエレクトロクラッシュや《Turbo》周辺に通じる要素も含めて考えると、最先端の音を闇雲に求めるというよりは、自身の中にある個人的音楽史を解体/再構築した、いわば"情報で遊ぶ"という感覚が根底にあるように思える。ゆえに本作は、《PC Music》のカタログを彩るに相応しい同時代性と、先達が築きあげてきた歴史や文脈を重んじる人たちも巻き込める魅力を持つに至った。そんな本作は、ただ情報で遊んでいるだけのその他大勢から抜きん出た作品である。



(近藤真弥)



【編集部注】『Western Beats』は《PC Music》のサイトでダウンロードできます。

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