GUI BORATTO『Abaporu』(Kompakt / Octave-Lab)

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Gui Boratto『Abaporu』.jpg

《What a beautiful life... What a beautiful world... I can see light... I can feel love... I can see the sun...》


 こんな一節を多幸感あふれるサウンドと共に紡いだ「Beautiful Life」は、2007年を代表するフロア・アンセムとして今でも輝いている。この曲によってギー・ボラットの名は、テクノ・シーンのみならず幅広い層から認知された。ダンス・ミュージックとしての高い中毒性を持ちながら、メロディアスでロマンティックなサウンドも備えていた「Beautiful Life」は、頻繁にクラブへ足を運ばない人たちの耳も魅了し、ダンスフロアの熱狂にいざなってみせた。やはり、メロディアスなトラックは強い。「Beautiful Life」と同年に発表されたザ・フィールド『From Here We Go Sublime』もそうだったか、当時のギー・ボラットのサウンドは "シューゲイズ・ハウス" や "シューゲイザー・テクノ" なんて呼ばれていた。このことからも、いかに「Beautiful Life」が優れた万人性を持っていたかわかるというもの。


 その「Beautiful Life」を本稿の書きだしとしたのには、もちろんそれなりの理由がある。ギー・ボラットの最新作『Abaporu』は、「Beautiful Life」に通じる歌心とメロディアスな側面が色濃いのだ。前作『III』はアンビエント色が漂う静謐な作品だったが、本作ではファンキーでアッパーなギー・ボラットの姿を見ることができる。さすがに "シューゲイズ・ハウス"と呼ばれていた頃の音を見いだすことはできないが、「Take Control」などは、「Beautiful Life」を連想する者も多いと思わせる素晴らしいヴォーカル・チューン。どこか哀愁を漂わせ、聴き手の感情が持つ機微を刺激し、耳と心を幸福感で満たしてくれる。このあたりは、リリース元の《Kompakt》が得意とするサウンドだが、ギー・ボラットはそれを象徴するアーティストのひとりと言っていい。


 全体的には、享楽的かつ開放的、そしてトランシー。少なくとも聴いていて気が滅入ることはないはずだし、むしろ心がどんどん昂っていく様を感じるだろう。コインは表裏一体、というのも変かもしれないが、本作はダークでヘヴィーなポスト・インダストリアルの余韻が残る現在において一種の清涼剤となりえる作品だ。



(近藤真弥)

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