ARCA『Xen』(Mute / Traffic)

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 ダンス・ミュージック・シーンでは、名義を使いわけ匿名性を醸す手法は決して珍しいものじゃない。とはいえ、その匿名性で遊んでいるかのような存在が、ここ数年の間で急激に増えたのは興味深いと思う。"u"を"v"に変えたチャーチズ(Chvrches)はまだ易しいほうで、たとえば日本だと、セーラーかんな子とおじぎという女性ふたり組のDJユニットぇゎモゐ(えわもる)、それからswaptvを中心とした§§(サス)というバンドがいるし、シフテッドが主宰する《Avian》から『Linear S Decoded』という秀逸なテクノ・アルバムを出したばかりのスウェディッシュ・デュオ、SHXCXCHCXSHなんてのもいる(Resident Advisorのインタヴューによると、「Hは無音なんだ。あとは、文字通り読めばいいだけ」だそうだ)。他にも、バンドキャンプで"vaporwave"のタグ検索をすれば、読み方がわからない匿名的な名前がごろごろある。なんだか、平野啓一郎が小説『ドーン』で提示した、場所や対人関係によって人格を分け、その場に適した自分が生じる"分人主義" 的感性に近いものを感じる。


 そんな分人主義的感性は、ベネズエラ出身のアルカことアレハンドロ・ゲルシが作りあげた本作『Xen』にも見いだせる。収録曲である「Thievery」のMVも含め、アルカのヴィジュアル面の多くを担うジェシー・カンダによる "分人" のほとんどが性別を超越した存在とされていること、そして、その存在が本作のジャケットでも大々的にフィーチャーされていることをふまえると、本作でアルカは自身のセクシュアリティーについて今まで以上にハッキリ表現しているように思える(アルカのセクシュアリティーについては、FADERに掲載された本作に関する記事が詳しい)。それは言ってしまえば、"分人"として自身の一側面を切り分けるのではなく、これまで切り分けてきた"分人"をかき集め、アレハンドロ・ゲルシという"個人"の物語を本作で表現したのではないか、ということ。


 そう考えると本作は、アルカのパーソナルな部分があらわになったという意味でのソウル・ミュージックである。こうした部分を考慮し、本作のタイトルが仮想マシンモニタの名称と同じであること、さらに冒頭で書いた分人主義的感性をふまえれば非常に面白い作品だと言えるし、ネット以降の状況と照らしあわせて社会学的に分析して楽しむのも一興だろう。だが、大きなシーンを生みだしたり、新たな潮流を作るような衝撃は去年発表の『&&&&&』よりも少ない。表題曲や「Sisters」といったビートが際立つ曲も、たとえばジャイアント・クロウの『Dark Web』を聴いたあとでは"斬新"と言い切れるものじゃない。ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーを彷彿させる冷ややかでアンビエントな音像は、耳に心地よく馴染んで素晴らしいと思うが。



(近藤真弥)

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