VESSEL『Punish, Honey』(Tri Angle)

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 ヴェッセルが2012年に発表したアルバム『Order Of Noise』は、その年を代表するテクノ・アルバムでありながら、テクノという枠に収まりきらない多様な音楽性が光っていた。タイトルにもある"ノイズ"・ミュージックや、ヴェッセル自身深い造詣を持つポスト・クラシカルなど、実に豊穣な音楽的背景を感じられるサウンド。とはいっても、このアルバムもやはり、《Modern Love》などが中心となって生まれ、ここ最近の音楽シーンにおいて一際盛り上がりを見せていたポスト・インダストリアル・ブームの文脈で解釈された。もちろんそれはそれでアリだし否定はしないが、アンディー・ストットの『Luxury Problems』がポスト・インダストリアル・ブームという枠を越え幅広い層に受け入れられたことを考えると、少々もったいないなと思ってしまうのも本音。まあ、ヴェッセルが意識的に万人性を込めて『Order Of Noise』を作ったとは思えないが、少なくともテクノやインダストリアルだけにとどまらず、さまざまな文脈から解釈可能なサウンドを鳴らしていたことだけは確かだ。


 そんな『Order Of Noise』から2年、ヴェッセルは新しい作品を完成させた。その名はズバリ『Punish, Honey』。少しばかりの暴力性を感じずにはいられないタイトルだ。収録曲に目をやると、「Red Sex」や「Drowned In Water And Light」など、これまた仄かに危うい雰囲気を漂わせる曲名が多い。特に「Drowned In Water And Light」なんて、日本語では「水と光で溺れ死んだ」と読めるタイトルだ。他にも、男性が持つ女性的な側面を意味する心理学用語の「Anima」という曲があったりと、聴き手の想像力を刺激するタイトルが多い。


 サウンドのほうは、前作以上に実験的でミニマルな音像が際立ち、ポスト・パンクの影響が色濃く表れている。艶かしいドロッとしたダークな世界観もこれまでと比べて強固なものとなり、それはスロッビング・グリッスルを想起してしまうほどだ。さらに「Red Sex」ではクラウトロックの要素も滲ませている。とはいえ、「Kin To Coal」における音の重ね方と起伏の作り方は、徐々にハイなほうへ導かれていくという意味でダンス・ミュージックの方法論そのものだ。このあたりにテクノを感じる者もいるだろう。


 さすがに『Order Of Noise』ほどの衝撃は望めないが、ヴェッセルは問題なく着実に進歩していることを確認できる内容なのは間違いない。"こうなったらどこまでも逝ったるわ!"みたいなヤケクソ感も良し。



(近藤真弥)




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