MOIRE『Shelter』(Werkdiscs / Ninja Tune / Beat)

|
Moiré ‎- Shelter.jpeg

 マンチェスターのレーベル《Modern Love》などが中心となって起きたインダストリアル・ブーム。この動きを象徴するアルバム、アンディー・ストットの『Luxury Problems』はテクノ・ファンだけでなく、普段はそういった音楽を聴かないインディー・ミュージック・ファンからも支持されたりと、ここ数年 "インダストリアル" という言葉が至る所で躍った。とはいえ、今年に入ってからその盛り上がりは落ち着きを見せはじめている。もちろん "終わった" というつもりは毛頭ない(そもそもそういう類いの言説は好きじゃない)。例えば、デムダイク・ステアのマイルス・ワイテカーとアンディー・ストットによるミリー&アンドレアは、良盤『Drop The Vowels』でジャングルとインダストリアルを接続し、英ダンス・ミュージック・シーンの新星ハッパは、マンニ・ディーと結成したハビッツ・オブ・ヘイトにおいて、ダブステップをテン年代向けに再解釈したサウンドにインダストリアルの要素を取り入れている。つまりインダストリアルは今、細分化の道を辿っているというわけだ。


 モアレのデビュー・アルバム『Shelter』は、そんな細分化するインダストリアルの動きに呼応したアルバムだといえる。ロンドン在住のモアレは、去年オランダのテクノ・レーベル《Rush Hour》から発表したシングル「Rolx」をキッカケに、大きな注目を集めるようになったアーティスト。レコード・ショップではテクノ・コーナーに置かれているのをよく見かけるが、4つ打ちのリズムを基本とした彼の音楽にはハウスが基調にある。とはいっても、一発で聴き手を揺らすようなものではなく、何度も聴いているうちにだんだんと意識が飛んでいく、いわば "ハマる" トラックが持ち味。すでに公開されているいくつかのインタヴューでも公言しているように、彼は音楽制作においてドラックの影響を受けている。その言葉通り、彼のトラックはドラッギーかつトリッピー、ここではないどこかへ聴き手を導く妖艶なサウンドスケープを描いている。そのような世界観はヴィジュアル面でも徹底しており、『Attitude』のMVでは、監督のレフン自ら「アシッド」だと認める映画『オンリー・ゴッド』に通じる色使いが目を引く。


 そうした魅力は『Shelter』でも健在、いや、深化している。「Rolx」収録の「Real Special」みたいな遊び心は影を潜めているが、断片的なフレーズとビートの反復によって生じる高い中毒性はより鋭利な響きを持ち、妖しくも陶酔的な美しい音世界を築きあげている。また、音楽的彩度も非常に高く、終始ズレたまま刻まれるリズムの後ろでインダストリアルな金属音が鳴る「Attitude」はポスト・パンクとも解釈できるし、「No Gravity」は、《Underground Quality》からリリースされてもおかしくない恍惚感とロマンティックさを宿したディープ・ハウス・トラックだ。


 しかし何よりも惹かれるのは、やはりその逃避願望である。「No Gravity」や「Stars」といった、意識変容を思わせるタイトルが掲げられたトラックはもちろん、アルバムを支配している意思もズバリ、"ぶっ飛びたい" という純粋すぎる欲求だけだ。当然ドラッグの影響も含め、モアレの姿勢に異を唱える者もいるだろう。だが、危険と隣り合わせの衝動から生まれた表現に多くの人が魅せられるのも、また事実なのだ。



(近藤真弥)

retweet