FKA TWIGS『LP1』(Young Turks / Hostess)

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 ロンドンを拠点に活動するスローイング・スノーが、今年5月にリリースしたファースト・アルバム『Mosaic』は実に興味深い作品だった。ダブステップ以降のベース・ミュージックが色濃い内容でありながら、女性シンガーのキッドAをフィーチャーした「Hypnotise」はウィッチハウスに通じるゴシックで耽美的な雰囲気を漂わせるなど、ヴェイパーウェイヴ以降のインターネット・ミュージックに通じる文脈もあるからだ。他にも、ガムランのような音色が耳に残る「Linguis」、シカゴのジュークを取り入れた「All The Light」、そしてスパニッシュ・ギターをサンプリングした「Pathfinder」といった具合に、さまざまな音楽が一要素として詰めこまれていた。こうした『Mosaic』の作風は、雑多性と折衷性が "特殊" なものから "規準" になったのだなとあらためて実感させてくれる。いくつもの小片を集めひとつの図像を作りあげる手法、文字通り "モザイク(Mosaic)" を想起させる編集感覚。そしてその感覚は、iPodのシャッフル機能、ツイッターのフォロー/リフォローなど、現在を取り囲む "編集" と相通ずるのだ。


 FKAツイッグスことタリア・バーネットもまた、そんな編集感覚を持つアーティストである。1988年イギリスに生を享けた彼女は、シンガーの才を開花させるまではダンサーとしても活動したりと、いわば裏方の立場で音楽業界に携わってきた。シンガーとしての彼女はまず、名刺がわりにツイッグス名義で「EP1」をリリース。その後FKAツイッグス名義で「EP2」、さらにインク.とのコラボ・シングル「FKA x inc.」を立て続けに発表するなど、着実にキャリアを積み重ねてきた。特に「EP2」は、多くの聴き手を惹きつけるキッカケになった重要作である。カニエ・ウェスト『Yeezus』に参加したアルカをプロデューサーに迎えて作られたこのEPは、ダークでざらついたインダストリアル・サウンドに、彼女のセクシーな歌声が交わることで妖しい魅力を放つ作品に仕上がっている。また、便宜的に "インディーR&B" "オルタナティヴR&B"と呼ばれることも多いタリアだが、そのような単一タグで括るのはナンセンスだと証明したのも、「EP2」の重要な点だ。もちろんR&Bの要素がまったくないわけではない。だが、それはあくまで彼女を形成する一要素にすぎないのだ。何かしらの単一タグで括ろうとすればするほど、タリアが秘めた拡張の可能性から遠ざかってしまう。


 なんて書くと、"じゃあその可能性って何?" となるのが道理。そこでようやく、彼女のファースト・アルバム『LP1』の登場だ。まずサウンドは、アルカ、ポール・エプワース、エミール・ヘイニー、クラムス・カジノ、デヴ・ハインズ(ブラッド・オレンジ)などがプロデュース面で助力しつつ、全10曲中5曲に "Produced" でクレジットされているタリアが全体を見るという形。そのなかでもエミール・ヘイニーは、本作に収められた曲の多くで手腕を発揮しており、貢献度は一番高い。暗くも美しいメロウな世界観、言うなれば "暗美(あんび)な音像" が本作を支配しているが、それはラナ・デル・レイ『Born To Die』を手掛けたエミール・ヘイニーの影響も少なからずある。『Born To Die』もまた、暗美な音像だからだ。エミール・ヘイニーの起用は、結果的に本作の統一感を打ち出すことに繋がっている。


 また、「EP1」や「EP2」と比較して、分かりやすいキャッチーなポップ・ソングが多いのも特徴だ。「EP2」のざらついたインダストリアルな質感は残しつつ、ダブステップ以降のベース・ミュージックを感じさせる「Lights On」、シンセ・ワークとベースの鳴らし方がジェームズ・ブレイクを想起させる「Pendulum」といった具合に、随所で時代への目配せをしながらも、基本的にはタリアの歌が前面に出ている。そういった意味で本作は、これまでの作品よりも "シンガーFKAツイッグス" を堪能できる内容だ。しかし、ベース・ミュージック、インダストリアル、アンビエント、ヒップホップ、ダブ、R&Bなど、いろんな文脈から解釈できる雑多な音楽性も健在。そう考えると本作は、よりポップ・ミュージックの浸透力に接近した進化と、ここまで築き上げてきた従来の魅力の深化を共立させたアルバムだと言える。


 そして、彼女を語るうえで欠かせないのがヴィジュアル面。ミステリアスな空気を醸す「Two Weeks」のMVからも窺えるように、彼女はFKAツイッグスという存在のイメージ作りにも熱心に取り組んでいる。本作のジャケットを飾るジェシー・カンダの "imagery" にしても、彼女をモデルにした "ナニカ" としか言いようがない、何とも不気味なオーラを放っている。一見アーティフィシャルだが、そこに彼女の息づかいを見いだせるというか。こうした自然と人工の境界線を曖昧にしたデザインは、ラファエル・ローゼンダールやジョー・ハミルトンなどの、いわゆるポスト・インターネット世代のクリエイターに通じるセンスだ。


 ここまで本作について考察してみると、彼女はトータル・アート志向の持ち主であることがわかるはずだ。ゆえに多くの人はタリアにビョークとの類似性を見いだし、"ポスト・ビョーク" なんてレッテルを貼っているのだろう。しかし、それは少々限定的に思える。例えば、タリアと同様にイギリス発でトータル・アート的な志向の持ち主といったら、ロキシー・ミュージックがいる。彼らはファースト・アルバム『Roxy Music』に「Re-Make/Re-Model」という曲を残しているが、この曲はカフェの一幕から始まり、3分10秒を過ぎたあたりからポール・トンプソンの激しいドラミング、グレアム・シンプソンによるビートルズ「Day Tripper」のベース・ソロ、ブライアン・イーノのノイジーなシンセサイザー、アンディー・マッケイのサックス、フィル・マンザネラのギター、そして最後はブライアン・フェリーのジャズを匂わせるピアノといったように、各メンバーの見せ場(ソロ・パート)が登場する。それが終わるとふたたびキテレツなバンド・アンサンブルに戻るのだが、このような解体/再構築をタリアは高いクオリティーでおこない、それは音楽的要素だけにとどまらず、ヴィジュアルなどのイメージ作りにまで及んでいる。そう考えると、タリアのやっていることはイギリスのポップ・ミュージック史に接続できる伝統的行為とも解釈でき、その行為をタリアは現在のツールと感性を通してやっているとも言える。それゆえ、こうした解体/再構築を "新しい" と喧伝して彼女の神格化を進めてしまうのは、FKAツイッグスというアーティストが持つ万人性を見落とすことに繋がりかねない。


 つまり本作は、解体/再構築という既存の方法でもって、最先端とされていながらもいまだ多くの人の目に触れていない文化を寄せ集め、それらを従来の文脈や文化と接合する試みだということ。これこそがタリアに秘められた拡張の可能性である。



(近藤真弥)

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