CLAP! CLAP!『Tayi Bebba』(Black Acre)

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 マーティン・デニーなどが代表的アーティストとされ、1950~60年代に流行ったエキゾチカなる音楽は、非西洋的イメージをサウンドで表現していた。エキゾチカを作っていたのは主に西洋人で、ゆえにエキゾチカは、西洋人から見た非西洋(例えば南国や熱帯地域など)という視点が色濃かった。言うなれば、外国人が日本といえば "ゲイシャ! スシ!! フジヤマ!!!" と口にする感覚と似たようなものである。日本だとエキゾチカはイージーリスニングとして聴かれることがほとんどで、レコード・ショップでも安売りのコーナーに置かれていることが多い。


 だが、エキゾチカの影響力は思いのほか大きく、例えば808ステイトの大名曲「Pacific」は、鳥の鳴き声という形でバンドの中心人物グレアム・マッセイが持つエキゾチカへの敬愛を示していたし、YMOがマーティン・デニーの「Firecracker」をカヴァーしたのも有名な話だろう(そういえば808ステイトは同名の違う曲を作っている)。こうした外側からの視点だったり、もっと言えば "ここではないどこか" に対する憧憬は、創造性を突き動かす強力なモチベーションであり続けてきた。


 作者自ら「空想上の島の音楽」と語る『Tayi Bebba』も、そのようなモチベーションが生み出した作品だと言える。本作を作り上げたクラップ!クラップ!は、イタリア人のトラックメイカー。彼はゲットー・ハウスのグルーヴが際立つベース・ミュージック「UaU」で知られる3人組ユニットL/S/Dのメンバーでもあり、筆者がクラップ!クラップ!を知ったのもこの曲を通じて。2009年から作品をコンスタントにリリースし、《Bedroom Research》というレーベルからアルバムも発表している。


 そうした過程を経て生み出された本作はL/S/Dの音に近い、強烈な低音が耳に飛びこんでくるベース・ミュージックだ。とはいえ、込められた音楽要素は実に多彩で、「The Holy Cave」や「The Rainstick Fable」などではジュークのリズムを刻み、隙間だらけのラフなビートが印象的な「Ashiko」は、シカゴ・ハウスの要素が滲んでいる。かと思えば、「Black Smokes, Bad Signs」ではストレートにダブステップをやってみたりと、聴き手を楽しませる遊び心も忘れていない。これまでなかったような音を追求しつつも、決してシリアスになりすぎず、ちょうどいい肩の抜け具合が光る。それは筆者からすると、ハドソン・モホーク『Butter』を初めて聴いたときの衝撃に近い。


 そして、本作を語るうえで欠かせないのが、作品全体を通じて貫かれるトライバルなビートだろう。とは言っても、先に書いたように本作は「空想上の島の音楽」をイメージして作られた作品。だから、"どこどこの国の◯◯という音楽を取り入れて・・・"、みたいな解釈は通用しない。クラップ!クラップ!の頭の中にだけ存在する島(イメージ)を音にしたのだから。そう考えると本作は、ベース・ミュージックにマーティン・デニーが乗り移ったような作品だと言えなくもない。


 それにしても、ラ・ルーは最新作『Trouble In Paradise』で、プロデュースを務めたイアン・シャーウィンと共に考えた「70年代の人たちが想像した未来の姿と音」というコンセプトを表現し、さらにローンは『Reality Testing』でSF感を演出しながら、このアルバムの影響源となった曲を集めたミックスで『機動警察パトレイバー 2 the Movie』のサントラからトラックをチョイスしたりと、現実世界とは異なる場所に想いを馳せる作品が多くなってきたのは果たして偶然なのだろうか? 特定の発祥地を持たずに拡散していったチルウェイヴは、ドリーミーなサウンドスケープと溺れそうなほどのリヴァーブを用いて、"故郷無き郷愁"という少々いびつな感情を表した。それはベータマックスなどの《Telefuture》周辺、いわゆるシンセウェイヴにも引き継がれているが、こうした文脈を本作にも見いだせるのは非常に興味深いと思う。いわば、PCと回線を介して世界中のあらゆる場所へ行った気になれるネット以降の現在を反映した感性ではないか? ということ。そういった意味で本作は、ベース・ミュージック好きはもちろんのこと、現在のポップ・ミュージックに強い興味を持っているすべての人が一聴すべき作品なのかもしれない。



(近藤真弥)

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