THE BUG『Angels & Devils』(Ninja Tune / Beat)

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 多様性には、大きく分けてふたつあるように思える。ひとつは、いろんな要素や文化が集められていながら、互いに交わることがない、あるいはそうした交わりを無条件に排除し、相互作用が働かない多様性。ふたつめは、互いの文化や要素を取り入れあい、自らのホームとする文化を多元的に発展させていく多様性。


 前作『London Zoo』から6年ぶりとなるザ・バグことケヴィン・マーティンのアルバム『Angels & Devils』は、後者の多様性が息づいた作品だ。本作を作り上げたケヴィンは、キング・ミダス・サウンド名義などでも活動するヴェテラン・アーティスト。そのキング・ミダス・サウンドやザ・バグに通底している要素といえば、やはりレゲエ/ダブということになるだろうが、それは本作でも変わっていない。前作もベースを強調したサウンド・プロダクションが際立ち、ダンスホールやグライムといった要素を中心に作られたアルバムだったが、本作はその方向性をより深化させた内容と言っていい。しかもダブステップが誕生する前からダンスホールやダブ・サウンドを鳴らしてきたこともあり、レゲエ/ダブへの敬意が色濃く表れている。


 とはいえ、「Fall」にはインガ・コープランドを迎え、そして「Fuck A Bitch」ではデス・グリップスとコラボレーションを果たすなど、現在の音楽シーンに目を向けることも忘れていない(デス・グリップスは先日解散してしまったが)。もちろんただ呼び寄せただけでなく、ダークかつ耽美的なアルバムの世界観に上手く馴染ませ、それこそ冒頭で筆者が述べたふたつめの多様性を実現させている。『Angels & Devils』という二項対立なタイトルとは裏腹に、本作は境界線を自在に飛び越える極めて折衷的な作品だ。これはおそらく、ケヴィンが長年ロンドンに住んでいた影響もあるだろう。多種多様な人々が行き交い住んでいるロンドンという街の土壌と文化を反映しているわけだ。


 そういった意味でも本作は、『London Zoo』から地続きのアルバムだと言え、同時にイギリスという国が持つ歴史を表象してみせる。それは例えば、ジャマイカから移り住んできた人たちによってイギリスにサウンドシステム文化が持ち込まれ、そうした流れが、60年代に始まり現在もロンドンで毎年おこなわれている祭典ノッティング・ヒル・カーニバルに発展した、というようなもの。こうした歴史的背景を本作は感じさせる。



(近藤真弥)

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