フォルティDL

FALTYDL


僕はミステリーを残すのが好きなんだ


去る7/18~19、フォルティDLことドリュー・ラストマンが大阪と東京でライヴをおこなった。筆者は19日の東京公演に足を運んだのだが、ビートを強調したアッパーなサウンドが展開され、多くの観客を踊らせていたのが印象的だった。ちなみに今回は、最新アルバム『In The Wild』を引っさげての来日。だから筆者も、このアルバムの特徴である実験的で静謐な音を浴びることになるのでは? と考えていたが、その予想は見事に裏切られた。それもドリューが言うように、「ミステリーを残すのが好き」なゆえ、かもしれない。


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photo by Masanori Naruse


今回は最新アルバム『In The Wild』を引っ提げての来日です。僕も聴かせてもらったんですが、これまでと比べて踊らせることを重視していないように聞こえました。


FALTY DL(以下:F):僕の場合、新しいアルバムを完成させると、前作に対するレスポンスみたいな内容になるんだ。前作では、クラブでかけるダンス・ミュージックをたくさん作ったけど、今回は実験的で、遊び心を強く打ち出している。それから家で聴いたり、電車に乗りながら聴けるような音にすることも意識したかな。


そんな『In The Wild』ですが、エイフェックス・ツインやマイク・パラディナスといった、いわゆるIDMの要素が強いですよね。


F:いま君が挙げてくれた人たちが90年代に作りあげたアルバムは、ダンス・ミュージックがクラブだけでなく家でも聴けることを証明したよね。シングルだけを10曲くらい寄せ集めたものじゃなくて、ダンス・ミュージックでも、流れやストーリがあるアルバムを作れるということを教えてくれた。僕はそういうアルバムが好きなんだ。だから僕は、それの2014年版を作っているという感じかな。


かなり強い影響を受けてるんですね。


F:僕は自分の音楽をみんなに届けるなかで、リスナーとコラボレーションしたいという気持ちがある。例えば、エイフェックス・ツインが出てきた90年代初めは、フェイスブック、インスタグラム、ツイッターといったものがなかったよね。だからエイフェックス・ツインという存在には今でもミステリアスなところがあるし、それは彼が作った音楽にも言える。情報がありすぎないほうが、リスナーがコミットしやすいというのはあると思う。だから僕も、あんまりアルバムのストーリーを主張しないようにしているし、そうやってリスナーが介入できる余白を残してる。そういうやり方はエイフェックス・ツインの影響がデカイ。


そういえば最近、エイフェックス・ツインの別名義コースティック・ウィンドウの未発表アルバムがリリースされましたよね。もう聴きました?


F:もちろん聴いたよ(笑)。すごい良かった。ライズ(L.I.E.S.)やザ・トリロジー・テープスなどのレーベルが、ラフで粗々しいサウンドを作りつづけているけど、そういう頑張って作ったようなものよりも断然良い。20年近くも前に作られたアルバムなのにね。それに、いま聴いても新鮮に聞こえるのが素晴らしい。


そして『In The Wild』には、「Some Jazz Shit」という曲があることからもわかるように、ジャズの要素が混じっています。


E:昔はジャズ・バンドでベースを演奏していたし、今でもジャズをたくさん聴いている。それから「Some Jazz Shit」という曲名にも、適当にパソコンのキーボードで打った文字列を曲名にしたりするエイフェックス・ツインの影響がある(笑)。あと、ジャズってシリアスな音楽に見られがちだけど、それを緩和するためにつけたタイトルでもある。他の曲にもそういう遊び心でタイトルをつけてるよ。 


なるほど。となると、『In The Wild』に収められた曲のタイトルに深い意味はないんでしょうか? 例えば「Rolling」は、MDMA(「エクスタシー」という通称が有名なドラッグ)を指す隠語でもありますが。


F:そんなことはないよ。意味はある。例えば「New Haven」は僕の生まれ故郷だし、それから「Rolling」は君の言う通りエクスタシーの隠語だけど、その意味あいでつけている。もう10年くらいやってないんだけどね(笑)。ただ、自分にとって意味があるものであっても、そこをあまり言いすぎないようにしている。僕はミステリーを残すのが好きなんだ。


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photo by Masanori Naruse


ではタイトルの詮索はこのへんにして(笑)、音の話に戻りましょう。「Heart & Soul」ではジャングルを取り入れていますが、これは昨今盛り上がりを見せるジャングル・リヴァイヴァルを意識したからですか?


F:僕のなかで、"最先端"とか"人気"という言葉はつまらないものだから意識はしてなかったんだけど(笑)、「Heart & Soul」は自分なりのジャングルを作ろうとして生まれた曲。まんまジャングルをやるのではなく、メロディーを強調して、リズムにも工夫を施してるよ。


ジャングルを取りいれることでいうと、最近亡くなったDJラシャドが『Double Cup』というアルバムでジュークとジャングルを上手く混ぜあわせていましたが、こういった作品を聴いたりはしてました?


F:もちろん! 友達でもあったからね。『Double Cup』は、1曲目が特に最高だ。もし今も生きていたら、カニエ・ウェストのような有名なラッパーと仕事をする人になっていたと思うよ。


友達だというのは知りませんでした!ちなみにジュークは頻繁にチェックしてます?『In The Wild』の収録曲でいうと、「Frontin」がジュークの匂いを醸してますが。


F:してるよ。確かに「Frontin」は、ジュークを感じさせるトラックだね。ヴォイス・サンプルが執拗に反復して、キックドラムも速いパターンだったりするし。


さっき"ラッパー"という言葉が出た流れで訊きたいんですが、『In The Wild』にラッパーやヴォーカリストをフィーチャーした曲を入れるという考えはなかったんですか?あなたはリーフ(Le1f)というラッパーにトラックを提供してますし、前作ではフレンドリー・ファイアーズのエド・マクファーレンをゲスト・ヴォーカルとして迎えていました。


F:『In The Wild』はけっこう自分勝手なアルバムで(笑)、このアルバムを作るなかで一番興奮したのは、すべて自分でコントロールできることだったんだよ。誰かをフィーチャーしたり、大ネタをサンプリングするという考えはなかった。でも、別のプロジェクトとして、いろんなヴォーカリストをフィーチャーしたものを作りたいという考えはある。


いまそのプロジェクトに向けたトラックを作ったりしてますか?


F:作ってるよ。それこそリーフとも作業したしね。ちなみに、リーフやミッキー・ブランコって日本ではどれくらい人気あるの?


いまのところは、一般的って言えるほど認知度があるわけじゃないです。ヒップホップを熱心に追いかけている人たちのあいだでは注目されてますけど。


F:そうなんだ。やっぱりアーティストがゲイだったりすると、日本では高いハードルになったりするのかな?


おねえ系と言われるタレントがテレビに頻繁に出たりしてるから、昔と比べたらそんなに高いハードルではないと思います。でも、いま日本では、ネット上やストリートでヘイトスピーチという人種差別行為が多くおこなわれています。もちろん、そうした差別に反対するデモもありますが。


F:アメリカも似たような感じだね。でも、ニューヨークはアメリカじゃないからカウントに入れないでほしい(笑)。


ハハハ(笑)。確かにニューヨークは、性的少数者によった育まれた文化をたくさん生みだしてますもんね。ちなみに、"クィア・ラップ(Queer Rap)"という呼称についてはどう思います? ピッチフォークがリーフやミッキー・ブランコといった、ゲイのラッパーたちを指す際に使ったことがキッカケで広がった呼び方です。


F:うーん、クィア・ラップか...知ってるよ。リーフもその呼び名はあんまり好きじゃないみたい。"クィア"っていろんな意味になりえる言葉だし、"クィア"という言葉が生まれた背景を考えるとなおさらね。どんなものにも名前はつくし、文句を言ってもしょうがないかもしれないけどさ。


リーフやミッキー・ブランコの姿勢にインスパイアを受けたりは?


F:彼らは、自分たちの音楽に自信を持っている。僕はアメリカ生まれで白人だから、社会的プレッシャーを感じずに表現できる立場にあると思うけど、彼らはゲイであることを堂々と示しながら表現活動をしている。そこが素晴らしいと思う。


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photo by Masanori Naruse


あなたが住んでいるニューヨークという土地自体の文化や歴史にもインスパイアされますか?


F:今はインターネットがあるから、どこに住んでいるとか、地域云々はあまり関係なくなってきてると思うな。僕も日本のジュークを聴いたりしてるしね。


日本のジュークも聴いてるんだ! ジュークじゃなくても構いませんが、日本のトラックメイカーですぐに名前が浮かぶ人っています?


F:2年前にドミューンで共演したハイファナ(Hifana)。それからセイホー(Seiho)! 彼は本当に最高だね。昨日大阪で会ったんだけど、綺麗なロングヘアーだったよ(笑)。


ハハハ(笑)。イホーは音もそうだけど、ヴィジュアルも美しさを感じさせますからね。サンプ(Thump)に提供したミックスでは、竹村延和「Let My Fish Loose (Aphex Twin Remix)」を選曲してますが、竹村延和も聴いたりするんですか?


F:タケムラノブカズ? ごめん、ちょっとわからないな。


そうなんですか? そのミックスは、えっと...これです(スマートフォンでトラックリストを見せる)。で、この曲が竹村延和によるものです。


F:おー、これね!ごめんごめん、思い出したよ(笑)。漢字で書いてあるから、名前が読めなくてわからなかったんだ。名前はいま初めて聞いた。このトラックだけを知っていて、だから使ったんだよ。


トモヤス・ホテイ・アンド・レイ・クーパー「A Drug Score」を使ったのも同じような理由?


F:これは、ジョニー・デップが主演の『ラスベガスをやっつけろ』という映画のサントラに入ってて、それを聴いて知ったんだ。


いろいろ聴いてるんですね。『In The Wild』にまつわる面白いトピックといえば、現代芸術家のクリス・シェンとのコラボレーションもあります。


F:クリスのことを紹介してくれたのはニンジャ・チューン・レーベルなんだ。『In The Wild』をプロモーションするにあたって、どういうことをやりたいかレーベルのスタッフに訊かれて、そのときに僕は、常に変化しているような、"生きつづけるウェブサイト"を作ってみたいと言ったんだ。それを実現させていくなかで名前が挙がったのがクリスだった。クリスはニンジャ・チューンが主催するクラブ・イベントに参加してもらったこともあるから、彼に話をしてみたというわけ。


もうひとつ面白いのは、『In The Wild』のプレス・リリースにはあなたが書いた詩もありましたよね。こういう言葉によるアプローチも興味深いと思いました。


F:プレス・リリースって、みんな同じようなものばかりでしょ? どんなアルバムで、誰がリミックスをしてみたいな情報だけをまとめたようなもの。それじゃあつまらないと思ったから、だったら自分で詩を書いてみようということで書いたんだ。詩の書き方は知らないし、自分でもあまり良い詩だとは思わないんだけどね(笑)。アクトレスが同じように、アルバム・リリース時に詩を発表したことがあったけど、それにもインスパイアされている。それと、アルバムを作ったらレーベルに投げて、あとはレーベル側だけでいろいろやってもらうというのが好きじゃない。プロモーションするときのヴィジュアルであったり言葉にも、積極的に関わりたいんだ。


前作からニンジャ・チューン、そして『You Stand Uncertain』まではプラネット・ミュー(Planet Mu)からアルバムをリリースしてましたが、こうした変化があなたにもたらしたものはありますか?


F:自分の音楽については、どこどこのレーベル関係なく常に変化しつづけたいと思ってるから、そういう部分での影響はない。一番の違いは、プロモーションの規模かな。プラネット・ミューは数人で運営されてるけど、ニンジャ・チューンは50人くらいいるからね。あと、『In The Wild』で良かったのは、マイク・パラディナスがトラック・リストを考えるときに参加してくれたこと。しかも、ニンジャ・チューンがマイクを雇うという形でね。だから、マイクという家族のような存在の人が協力してくれて、そのプロモーションをニンジャ・チューンがやってくれるという、このふたつの共演はすごく嬉しかった。


時間も迫ってきたので、最後の質問を。いまあなたが注目しているアーティストを教えてください。


F:E+Eっていう人がいるんだけど、知ってる? 8月が9月に出るリーフのリミックスもしてたりするんだけど。


もちろん! アルバムだと『The Light That You Gave Me To See You』が好きです。


F:彼の音楽すごく良いよね(笑)。僕にはどんなジャンルにも括れない独特のサウンドに聞こえるから、すごい衝撃を受けた。もちろん彼の音楽に当てはまるジャンル名があるのかもしれないし、僕がそれを知らないだけかもしれないけどね。実は、僕がやってるブルーベリー・レコーズで契約したいと考えてるんだよ。だから今、すごい頑張ってる(笑)。



2014年7月

取材、文/近藤真弥



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フォルティDL
『イン・ザ・ワイルド』
(Ninja Tune / Beat)

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