KHOTIN『Hello World』(1080p)

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《みなさまにご案内いたします この飛行機はまもなく離陸いたします シートベルトをもう一度お確かめください。》(「Hello World」)


 カナダ出身のアーティスト、ホトィンによるアルバム『Hello World』は、ベッドルームに収まりきらない想像力が爆発したハウス・ミュージックである。スチュワーデスのアナウンスで幕を開け、旅立ちの興奮を表すかのように粗々しいビートが鳴る表題曲にはオープニングを飾るに相応しい壮大さが宿り、続く「Ghost Story」は、ドラムマシーンのタムを多用したシカゴ・ハウスなリズムのうえで、柔らかいシンセ・サウンドが優雅に舞う心地よい曲。ここまでくれば、あなたはもう『Hello World』の住人。ラストの「Why Don't We Talk」まで、甘美で流麗な電子音に身を任せることになる。


 先にも書いたように、このアルバムはハウス・ミュージックを基調に作られたものだ。しかし、全曲にシカゴ・ハウスのラフで快楽的なリズム・パターンを取り入れながらも、アシッディーな音色を打ち出した「Infinity Jam」、柔らかいパッド音が幽玄に響く「Fight Theme」といった具合に、本作におけるホトィンは曲ごとにシンセの使い方を巧みに変えていくことで多様さを生み出している。ゆえにビートから実験精神を窺えないのが欠点といえば欠点だが、そうした欠点を補うように、聴き手をチル・アウトにいざなうサウンドスケープの魅力が本作を包みこんでいる。


 それにしても、そんなサウンドスケープが『Selected Ambient Works 85-92』期のエイフェックス・ツインや、《Planet Mu》主宰のマイク・パラディナスによるµ-Ziq(ミュージック)といった、いわゆるIDMを連想させるのはなんとも興味深い。例えば、ローンは『Reality Testing』、そしてフォルティDLは『In The Wild』において、それぞれ自らの感性と解釈を通したラウンジ・ミュージックを鳴らしているが、こうしたラウンジ・ミュージックの要素が『Hello World』にもある。いわば、アーティフィシャルでキラキラとした電子音によって構築された世界。とはいえ、《100% Silk》以降のテン年代インディー・ダンスの文脈にある『Hello World』に対し、『Reality Testing』や『In The Wild』は、《Brainfeeder》がヒップホップとジャズの新たな関係性を提示したあとの流れに存在するという差異はあるのだが。


 しかし、"ラウンジ・ミュージック" "IDM" というキーワードで『Hello World』『Reality Testing』『In The Wild』を接続できるのは確か。それはつまり、チルウェイヴの盛り上がりが収束してからしばらく鳴りを潜めていた "チル" という要素が、ふたたび浮上しつつあることの証左なのだ。




(近藤真弥)




【編集部注】『Hello World』はカセット・リリース。《1080p》のバンドキャンプではデジタル版のダウンロード販売もおこなっています。

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