VARIOUS ARTISTS『#Internetghetto #Russia』(Hyperboloid)

|
#INTERNETGHETTO #RUSSIA.jpg

 「Someone's Missing」という曲で、《ここにあるのは成長中のカルチャー 死体の奥深く さまざまな時代がまじりあい その源へ》と歌ったのは、確かMGMTだったか。今から4年前、2010年のことだ。もう少し時を遡って、2002年。LCDサウンドシステムことジェームズ・マーフィーは、「Losing My Edge」のなかで、インターネットが一般化して以降、誰もがさまざまな時代の音楽や文化に触れることができる現在を予言するような "神の視点" を歌った。《1968年ケルンで最初のカンのコンサートを観た》《パラダイス・ガラージのDJブースにラリー・レヴァンとともに俺はそこにいた》といった具合に(ちなみにジェームズは1970年生まれ)。この歌は、音楽マニアによるうんちくとレコード・コレクションの自慢に聞こえるが、その豊富な知識がもはや特権ではないことも告げていた。知識は "占有" ではなく "共有" されるものと認知され、多くの者がネット上に資料をアーカイヴとして次々とアップする、いわば "記憶の外部化" が進んでいるのだから、それも致し方ないというもの。そして、この流れが行き着いた地点こそ、《Ninja Tune》などから多くの作品をリリースしているミスター・スクラフが筆者に語ってくれた、「昔に比べて細分化されたから、自分の音楽史というか履歴が他の人とかぶることが少なくなったかもしれない。みんなインターネットを介して、個々の音楽文化を築き上げている」(※1)という現況だ。


 そんな現況がもたらした興味深い作品が、『#INTERNETGHETTO #RUSSIA』である。本作はロシアの《Hyperboloid》というレーベルによって企画されたコンピレーション・アルバム。ジューク、ダブステップ、ラガ、トラップ、EDM、ジャングルなどが混在した内容で、フロア映えするトラックが多く収められている。ちなみに、本作のメガミックスがアップされているサウンドクラウドのタグには、"techno trap" "tropical bass" "webpunk" といったジャンル名がある。このあたりは、単一タグで括れない表現が当たりまえになった現在だからこそであり、面白くはあるが、決して珍しいものではない。筆者からすると、《R&S》が2011年にリリースし、テクノ、IDM、ダブステップ、ヒップポップが交雑したコンピ『IOTDX』のアップデート版にも聞こえるが、アルバム・タイトルに "GHETTO" があることからもわかるように、『IOTDX』と比べたら本作は享楽的で、汗臭さが漂う。それゆえアゲアゲなグルーヴが際立っている。


 また、そんなグルーヴがアルバム全体を支配しているのも興味深い。コンピレーションともなれば、色彩豊かな雑多感を少なからず醸すものだが、本作はそうした雑多感を残しつつも、刹那的でアッパーなレイヴ感、それからハドソン・モホーク『Butter』以降のツルッとしたアーティフィシャルなシンセ・サウンドという2点が全曲に通低している。ゆえに本作は雑多感よりも統一性を強く感じさせ、言ってしまえば、とあるアーティストによるオリジナル・アルバムと紹介されて聴いたとしても、何ら違和感がない。


 先に引用したミスター・スクラフの発言には筆者も同意できるし、レヴューやライナーノーツといった場を借りて何度も繰り返し書いてきたことでもある。だが、本作の統一性は、みんなが同じ方向に傾いた画一的な熱狂や連帯とは違う、いわば新しい帰納的な連帯の形、それこそ「個々の音楽文化を築き上げ」た先を示しているように見える。音自体の面白さはもちろんのこと、人と人の繋がり方に新たな視点を提示したという点でも、本作は多くの人の興味と好奇心を促す作品だ。



(近藤真弥)



【編集部注】『#Internetghetto #Russia』は《Hyperboloid》のバンドキャンプからダウンロードできます。



※1 : ミュージック・マガジン2014年6月号掲載 ミスター・スクラフのインタヴューより引用。

retweet