PANIC SMILE『INFORMED CONSENT』(Headache Sounds)

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 奇しくも日本政府が集団的自衛権の行使を容認するための憲法解釈変更を決定した201471日、新メンバー加入後としては初となるPANIC SMILE(パニック・スマイル)の作品が店頭に並んだ。カヴァー・アートには医学書からとられたような臓器の模型や化学構造式、顕微鏡の視野等が白黒でコラージュされている。フロント・アートに映る七三分けの男性は、おそらく人体模型なのだろうが、三つ折りジャケットを広げた下部にあるデモを想起させる群衆の写真と相まって、このご時世、否が応にもヒトラーを連想させる。


 本作のタイトル『INFORMED CONSENT』とは、正しい情報を伝えられたうえでの合意を意味する、主に医療現場で用いられる概念。自分たちに降りかかる運命について我々は知る権利がある。しかしインフォームド・コンセントは訴訟社会であるアメリカで、訴えられるリスクを減らすための医師の自衛手段として広まった側面がある。現在の社会情勢においてますます皮肉に聞こえてくる用語だ。医師は騙そうとして難解な話をするわけではないが、政治家は意図的に本質を外した答弁をする場合がある。表題曲「INFORMED CONSENT」は、インターネットで能動的に情報を得ているようで知らないうちに誘導され操られ、放射能という十字架を背負わされるさまを歌っているとも解釈できる。英詞の「NUCLEAR POWER DAYS」ではもっと露骨に原発や核戦争の恐怖を叫ぶ。「DEVIL'S MONEY FLOW」は一聴、経済について歌っているようで、漁船、国境といった単語を混ぜ込み、裏にある政治的意図を暗示する。何より《こっちに選ぶ権利がない》のが問題だと。


 歌詞カードには男性がUFOに吸い込まれていく漫画が描かれている。大きな力に操られ踊らされる男性。恐怖体験であるが、ビュルルーン、パワワーといった気の抜けた効果音でなんだか喜劇的だ。そのUFOに乗る宇宙人はロールシャッハ・テストの図形に似せた風貌をしている。つまり宇宙人もPANICSMILEの音楽も無意識に由来することを示唆しているのかもしれない。不動のヴォーカル吉田肇に、保田憲一がベースからギターへ転向、新たなリズム隊としてドラムに松石ゲル、ベースはDJミステイクという新メンバーで紡がれるバンド・アンサンブルは、緻密さが自然にほぐれ、かつてないほど開放的でユーモアも見え隠れする。それこそ歌詞カードの漫画みたいに明快で、その辺のJ-POPより爽やかだと錯覚してしまうほどだ。変拍子でどんどん展開していくプログレッシヴ・ロックのような小難しい曲ばかりなのに難解に聴こえない。1曲目の「WESTERN DEVELOPMENT2」で吉田は《とりあえず反旗を振っている 敵タナトスは馬鹿でかい》と歌うが、彼がデビュー後21年間保ち続けてきた闇雲な焦燥感、そのテンションにジャストな時代がやっと訪れたのかもしれない。ラストの「CIDER GIRL」では《ツイートをしたって絶対一人》と歌いながらも、不安な闇の彼方に一筋の希望を探す。優しい女性コーラスも添えられて、彼らにしては驚くほどストレートな90`sオルタナティヴ・ギター・ロックだ。盟友NUNBER GIRL(ナンバー・ガール)とともに博多の街を熱くした吉田の若き衝動は今なお続いている。



森豊和

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