SHARON VAN ETTEN『Are We There』(Jagjaguwar / Hostess)

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 「恐れるものは何もなかった」。このアルバムを繰り返し聴いて、こみあげてくる感情についてずっと考えて、たどり着いた言葉。パティ・スミスやスザンヌ・ヴェガを連想するヴォーカルが胸を貫く。エレクトロニカ、ポストロック、インディーR&Bの要素をさりげなく取り入れながら、骨格はあくまでシンプル。一聴するとオーソドックスなブリティッシュ・フォーク、生活感のこもったブルース、あるいは息が詰まるほど甘いソウル。最小限の音数で、本当に大切なことだけを紡ぎ出そうとしている。何回か聴いたのち、ふと1曲目のタイトルを見ると「Afraid Of Nothing(何も恐れない)」。なんだ、はっきり歌っているじゃないか。そうだよ、とても近い感覚。冒頭に書いた言葉はレディオヘッドPyramid Song」の一節《Nothing to Fear》からの連想だが、あの曲も当時の最先端音楽の影響を吸収したうえで伝統的な歌を再現していた。とてもスイートであまりに繊細で孤独、けれど力強い点も共通している。


 ボン・イヴェールとのコラボレーション、前作『Tramp』をザ・ナショナルのメンバーがプロデュース、セルフ・プロデュースの本作にもザ・ウォー・オン・ドラッグスのメンバー始め盟友ミュージシャンが多数参加など、ここ最近シャロン・ヴァン・エッテンのトピックは尽きない。しかしそんなことより気になるのは、彼女の唄を聴いていると、愛するとはどういうことか絶えず問いかけられているようであること。3曲目「Your Love Is Killing Me」は命がけで向かい合う恋について。6曲目の「I Love You But I'm Lost」では恋人との損なわれてしまった関係を告白し、私たちはお互いに尊敬し高め合うことができるはずなのにという内容を歌う。7曲目の「You Know Me Well」では恋人との関係がたとえこの世の地獄であったとしても、向かい合っていく覚悟を切々と歌う。そしてラストの「Every Time The Sun Comes Up」では困難が続いていく毎日について淡々と歌い、最後の一節で、全ては幻覚かもしれないと笑い飛ばす。聴き手に最終的な判断をゆだねているようだ。


 トム・ヨークが「Pyramid Song」で歌ったように過去、現在、未来、この世、あの世、全ては地続きかもしれない。今生きている現世こそ、ひょっとしたら地獄なのかもしれない。シャロン・ヴァン・エッテンは決して安易な希望を歌わない。シニカルな絶望にも傾かない。ただ在りのままの自分を、世界を包み隠さず歌う。



(森豊和)

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