SAM SMITH『In The Lonely Hour』(Capitol)

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 先日、映画『チョコレートドーナツ』を新宿シネマカリテで観てきた。この映画は、1979年のカリフォルニアを舞台に、ダンサーとして働きながらもベット・ミラーのようなシンガーになりたいと夢見るルディ、世界を変えるために法律を学び検事局で働いているポール、そして薬物依存症の母に育てられたダウン症の少年マルコという3人の "愛" にまつわる物語だ。同性愛者であるルディとポールは、マルコの母が薬物所持で逮捕されたのをキッカケに、マルコを我が子のように育てはじめる。3人で一緒に暮らしながら、学校へ通わせ、毎日朝食を作り、マルコが眠る前は、彼が大好きなハッピーエンドの話を聞かせる。


 それは3人にとって幸せな時間であった。ルディも、ポールからプレゼントされたテープレコーダーでデモを制作し、それがひとりのクラブ・オーナーに気に入られ、シンガーとしての道を歩みはじめた。しかしある日、ルディとポールが同性愛者であることが周囲に知られ、マルコは家庭局に連れて行かれてしまう。ポールも仕事を解雇されるが、それでもルディとポールは立ち上がり、周囲の偏見と差別、そして法律に挑んでいく。


 ロンドン出身のシンガーソングライター、サム・スミスの名が多くの人に知られるキッカケは、ディスクロージャーの大ヒット曲「Latch」に参加したことだろう。この曲でサムは、繊細で甘い歌声を披露している。その後もノーティ・ボーイの「La La La」に参加するなど、いくつかの客演をこなしつつ、自身のEP「Nirvana」もリリース。着実に歩みを進めてきた。


 そうした道のりを経てリリースされたファースト・アルバム『In The Lonely Hour』は、儚くも美しい "哀しみ" に満ちた作品に仕上がっている。もしかすると、「Latch」や「La La La」でサムの歌声を初めて聴いた者は、肩透かしを喰らうかもしれない。というのも、このアルバムに収められた曲のほとんどは、私たちに語りかけるようなサムのヴォーカルを際立たせたバラッドだからだ。それゆえアップテンポなトラックは少なく、サムが幼い頃から聴いてきたというソウル・ミュージックの影響が色濃く反映されている。言ってしまえばノリノリなアルバムではないし、みんなで聴くよりはひとりベッドルームで聴き入るのが相応しい。


 それでも本作は多くの人に聴かれ、愛される作品になるだろう。先ごろ公開されたFADARのインタヴューでサムは、同性愛者であることを告白している。痛切な片想いを綴った歌詞の内容が多いことからも、本作が "報われない愛" をテーマにしているのは窺えたが、その対象は男性だったということだ。とはいえ、それは本作を楽しむうえでは関係ない。『チョコレートドーナツ』と同様に、本作もまた、他者を求める者なら誰でも味わうであろう "愛の物語" について描かれているのだから。ゆえに本作を、愛する対象が同性であるということで、"性的少数者の物語" と括ってしまうのは些か狭隘ではないかと思う。愛した者が同性であったというのは、人それぞれ性格が異なると一緒で、ほんの些細な違いにすぎない。あくまで本作は、サム・スミスという名の青年をめぐる抒情と物語で作られているのだ。


 このような普遍性が根底にあるからこそ、『In The Lonely Hour』は眩しいほどの輝きを放っている。




(近藤真弥)

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