MARTYN『The Air Between Words』(Ninja Tune / Beat)

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 ハウスは偉大というべきか、永遠というべきか、どちらにしても、"死んだ" "終わった" みたいな言説とは無縁の音楽なのは間違いない(まあ、そもそも、そうした言説自体が理解できないものではあるが)。新しいジャンルや潮流が現れ、一時は音楽シーンの片隅に追いやられても、いつの間にか大きな潮流として戻ってくる。例えば、ダブステップ以降は非4つ打ちのトラックが横溢したイギリスでさえ、スタイリッシュなハウス・ミュージックを鳴らすディスクロージャーが全英アルバム・チャート1位を奪取し、ルート94がセクシーなハウス・トラック「My Love」を全英シングル・チャートの頂点に送り込める現在なのだ。ダブステップ以降のベース・ミュージックにしても、"ベース・ハウス" なんて言葉が至るところで見られるように、ハウスを取り入れている。やはりハウスの万能性は、多くの人にとって魅力的なものなのだろう。言ってしまえば、4つ打ちであれば何をやってもいいのが、ハウスという音楽だ。


 本作『The Air Between Words』を完成させたマーティンは、ダブステップ以降のベース・ミュージック・シーンにハウスを逸早く接続したひとりである。前作『Ghost People』が《Brainfeeder》によってリリースされたことからもわかるように、マーティンはフライング・ロータスを中心としたビート・ミュージック・シーンで評価され、同時にポスト・ダブステップというタームの代表的アーティストのひとりとしても見られていた。しかし、《Nonplus》がリリースしたコンピレーション『Think And Change』に提供した「Bad Chicago」、そして「Newspeak」などのEPが表していたように、ここ最近のマーティンはハウス/テクノに傾倒していた。


 本作は、そんなマーティンのモードが明確に反映された、ハウス/テクノ・アルバムに仕上がっている。アンソニー・ネイプルズのようなハウス界の新進気鋭を抱える《Mister Saturday Night》と共振するローファイでラフな質感が際立ち、初期のシカゴ・ハウスやデトロイト・テクノといった、いわゆるオールド・スクールな音に接近している。インガ・コープランドフォー・テットを迎えて描きだしたサウンドスケープは、ザラつきながらも、ダンス・ミュージックが持つ甘美な享楽性を上手く抽出してみせる。特に高い中毒性を持つ「Forgiveness Step 2」のグルーヴは、1度身を任せてしまったらなかなか抜けだせないものだ。



(近藤真弥)

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